第264話 ハーブティーの工房

 ぼくが、「お茶を作るところが見たい」と言えば、アオキ先生は笑顔でうなづく。


「じゃあ、ボクの工房こうぼう(物作りする場所)にれて行ってあげるにゃお」


 そう言って、アオキ先生はぼくを抱っこしてくれた。


 ぼくはまだ、体中が痛くて歩けないから。


 たぶん、落ちた時に、足の骨を何本か折っている。


 怖いけど、どこの骨がどのくらい折れているか、知るべきだよね。


 ということで、教えて、『走査そうさ


対象たいしょう食肉目しょくにくもくネコ科ネコ属リビアヤマネコ』


個体名なまえ:シロ』


症状しょうじょう全身打撲創ぜんしんうちみ右手頸靭帯損傷みぎてくびねんざ左足首靭帯損傷ひだりあしくびねんざ右前腕骨不全骨折みぎうでのほねにヒビ左手根骨不全骨折ひだりてくびのほねにヒビ右下腿骨不全骨折みぎあしのほねにヒビ右足根骨不全骨折みぎあしくびのほねにヒビ左大腿骨不全骨折ひだりふともものほねにヒビ尾椎完全骨折しっぽがおれている


処置しょち安静あんせいののち、自然治癒勝手に治る


 うわ~……思った通り、大変なことになっていた。


 だけど良く見たら、ほとんど不全骨折ほねにヒビだな。


 折れているのは、しっぽの骨だけか。


 気になって、しっぽを見れば、力なくれている。


 しっぽの骨って、折れても治るの?


『約1ヶ月程度で、完治なおる


 治るんだったら、良かった。


 でも、あと1ヶ月は安静あんせいにしなきゃいけないってことか。


 ぼくがこの集落しゅうらくに来てから、何日経ったのかな?


 お父さんとお母さんとグレイさんは、今頃どうしているのかな?


 ぼくがいなくなっちゃったら、3匹はどうするんだろう?


 お父さんとお母さんは、イチモツの集落しゅうらくへ帰るのかな?


 グレイさんは、どこへ行くのかな?


 早くケガを治して、3匹を探しに行きたい。



 

 そんなことを考えている間に、アオキ先生のお茶工房ちゃこうぼういた。


「ここが、ボクがお茶を作っている場所にゃお」


 大きな木の枝に、ハーブのたばがたくさん干してあった。


 木の根元ねもとには、大きくて深い木皿きざらがいくつも置いてある。


 木皿きざらの中には、ハーブがたばごと水にけてあった。


 ハーブティーの茶葉ちゃばは、風通りが良い場所に干して、乾燥させる。


 水出しハーブティーは、水に茶葉ちゃばを3時間程度、ける。


 いつ、何が必要になるか分からないから、作り置きしているらしい。


 ぼくが聞けば、アオキ先生はひとつずつ丁寧ていねいに答えてくれた。


 ・カモミール


 ・イヌハッカ


 ・ローズヒップ


 ・ローズマリー


 ・シソ


 ・ヨモギ


 ・ムラサキツメクサ


 ・エノコロクサ


 などなど、猫の食べられるハーブが並んでいる。


 茶葉ちゃばが出来たら、保管用ほかんよう横穴よこあなに移動させるそうだ。


 茶葉ちゃばにしておけば、季節関係なく、いつでも使える。


 アオキ先生は、これを全部ひとりで管理しているという。


 やっぱり、アオキ先生はすごい。


「ミャ?」


 お医者さんは、大変ですか?


「ケガや病気の猫がいる時は、大変にゃお。でも、みんなが元気な時は、ひまにゃお。毎日のんびりお昼寝しながら、お茶を作っているにゃお」


 アオキ先生はそう言って、色んなハーブティーの味見あじみをさせてくれた。

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