第240話 トマークトゥスの縄張り

 ナズナの集落しゅうらくを出た後、『走査そうさ』で次の集落しゅうらくを探す。


位置情報いちじょうほう直進ちょくしん5km、右折うせつ200m』


 5km?


 次の集落しゅうらくまで、かなり距離きょりがあるなぁ。


 でも、症状しょうじょうが表示されないってことは、病気やケガで苦しんでいる猫はいないってことだよね。


 目的地まで距離きょりがあるし、急いで行く必要もないな。


 すると、横を歩いているお父さんとお母さんが話し掛けてくる。


「シロちゃん、次に行く集落しゅうらくは決まったニャー?」


「近くに、病気やケガで苦しんでいる猫はいないニャ?」


「ミャ」


 うん、次の行き先は決まったけど、ここからずいぶん遠いんだ。


 あと、病気やケガの猫もいないから、急がなくて大丈夫だよ。


「それは、良かったニャー」


「だったら、のんびり行きましょうニャ」


「ミャ」


 グレイさんにも伝えようとしたら、何やら様子がおかしい。


 何かあったのか、そわそわキョロキョロしている。


 気になって、声を掛ける。


「グレイさん、どうしたのミャ?」


『この先に、トマークトゥスの縄張なわばりがあるんだ。ほら、あそこ』


 グレイさんが指差ゆびさした木には、マーキングのあとがあった。


 周囲しゅういにおいをいでみると、グレイさん以外のトマークトゥスのにおいがする。


縄張なわばりに入ってしまうと、れにおそわれる。縄張なわばりをけて、遠回とおまわりして行こう』


「分かったミャ。教えてくれて、ありがとうミャ」


 お父さんとお母さんにも、縄張なわばりのことを伝えて、大きく遠回とおまわりすることになった。


 どんな動物にも縄張なわばりがあるってことを、すっかり忘れていた。


 縄張なわばりにかんしては、『走査そうさ』は教えてくれなかったからな。


 このまま真っ直ぐ歩いて行ったら、トマークトゥスの縄張なわばりに踏み込むところだった。

 

 危ない危ない。


 そういえば、前にトマークトゥスにおそわれた時も、縄張なわばりに踏み込んじゃったのかな?


 考えてみたら、ぼく、グレイさんとこんなに一緒にいるのに、トマークトゥスのことを全然知らないや。


走査そうさ』で、トマークトゥスの生態せいたいを聞いてもいいんだけど。


 せっかく、グレイさんが側にいるんだから、直接聞けばいいよね。


 ぼくは、グレイさんを見上げてお願いする。


「ねぇ、グレイさん。ぼく、トマークトゥスのこと、もっと良く知りたいミャ」


『なに? オ、オレのことを、もっと良く知りたいだと? そんなに、オレに興味きょうみがあるのか? そ、そうか……ちょっとれるが、いいぞ。知りたいことがあれば、なんでも教えてやろう』


 何を勘違かんちがいしたのか、グレイさんはくさそうに笑った。


 なんでも教えてくれると言うので、遠慮えんりょなく質問攻しつもんぜめにしてみた。


 グレイさんはうれしそうに声をはずませて、なんでも答えてくれた。

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