第236話 その子が欲しい

 西の空へかたむいたお日様ひさまが、オレンジ色にかがやく頃。


 ようやく、集落しゅうらくの猫たち全員の治療ちりょうが終わった。


 やれやれ、やっと終わった。


 この集落しゅうらくの猫たちは、とにかく数が多くて大変だった。


 集落しゅうらくの猫たちは、「かゆくなくなったニャー」と、よろこんでいる。


 みんなの笑顔を見ると、「頑張がんばって良かったな」と、思える。


 だけどやっぱり、めちゃくちゃ疲れた。


 横を見れば、お父さんとお母さんも、疲れた顔でぐったりしている。


 患者かんじゃさんが途切とぎれるまで、はたらきっぱなしだったもんね。


 ふたりとも、お疲れ様。


 ぼくたち3匹が、疲れて寝転ねころんでいると、誰かが近付いてきた。


 そちらを見ると、グレートビネコがニッコリと笑い掛けてくる。


「旅のお医者さんがた、お疲れ様でしたにゃあ。ワタシは、この集落しゅうらくおさのハイトビですにゃあ。集落しゅうらく代表だいひょうして、お礼を言わせて下さいにゃあ」


「ミャ」


 集落しゅうらくおささんですか、初めまして。


「ワタシをふくめ、集落しゅうらくの猫たちを助けてくれて、ありがとうございましたにゃあ」


「ミャ」


 どういたしまして。


 この集落しゅうらくには、お医者さんはいないんですか?


「この集落しゅうらくに、お医者さんなんていないにゃあ。だから、お医者さんがたが来てくれて、本当に助かりましたにゃあ。旅なんてやめて、ずっとここにいて欲しいくらいですにゃあ」


 その言葉を聞いて、お父さんとお母さんがバッと起き上がり、ぼくを抱き寄せた。


 お父さんとお母さんは怒りで毛を逆立さかだてて、おさに向かって、「フシャーッ」と威嚇いかくする。


「そんなことを言うなら、今すぐ出て行くニャーッ!」


「シロちゃんをこき使う者は、誰であろうと許さないニャッ!」


「にゃにゃっ? 何をそんなに怒っているんですにゃあっ? ワタシ、何か怒らせることを言っちゃいましたかにゃあ?」


 怒るふたりを見て、おさはビックリして飛び上がった。


 ぼくはあわてて、お父さんとお母さんをなだめた。


 ふたりを落ち着かせた後、「何故、ふたりがこんなに怒っているか」を、軽く説明した。


 ぼくの話を聞いたおさは、納得なっとくした顔で何度も大きくうなづく。


「確かに、その気持ちは良く分かりますにゃあ。お医者さんがいれば、こんなに苦しまなくて済んだのですからにゃあ。ワタシたちの集落しゅうらくにも、1匹欲しいですにゃあ」


 おさは悪い顔でニヤリと笑って、ぼくをじっと見つめた。


 その顔が怖くて、ぼくはお母さんにギュッとしがみついた。


 お父さんとお母さんも、ぼくをサンドイッチしてギュッと抱き締めてくれた。


 だけど、おさはすぐに怖い表情をくずして、優しい顔でふわりと笑う。


「ですが、こんな小さな仔猫こねこにそんなにおびえられちゃ、引きめるなんて出来ませんにゃあ」



 ――――――――――


【グレートビネコとは?】


 白毛に、灰色のトビ模様もようがある猫のこと。


 greatグレート(強い・大きい・素晴らしい)ではなく、grayグレー(灰色)。

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