第235話 かゆみのストレス

 集落しゅうらくへ近付くにつれて、猫たちの悲鳴が大きくなってくる。


 猫たちの姿が見えてくると、みんな、体をきむしっていた。


 きすぎて、毛がめちゃくちゃになり、ところどころ、円形脱毛部分ハゲになっている。


 はげしいかゆみは、本当に気が狂いそうになるよね。


 可哀想かわいそうに……今、助けるからね。


 ぼくは大きく息を吸い込み、集落しゅうらくの猫たちに向かって、声をり上げる。


「ミャッ!」


 ノミで苦しんでいる、皆さんっ!


 ぼくは、お医者さんですっ!


 皆さんの為に、お薬を作って来ましたっ!


 治療ちりょうしますから、こちらに並んで下さいっ!


「ニャ、ニャンだって~っ?」


「早く、このかゆみと痛みを、なんとかして欲しいにゃあ~っ!」


 ぼくの声を聞いた猫たちが、一斉いっせいに集まって来る。


 あっという間に取り囲まれたかと思うと、「医者なら、さっさと治せっ!」と、怒鳴どなるようにうったえてくる。


 みんな、ノミアレルギーによる強いかゆみで、かなりイライラしているようだ。


 出会ったばかりの猫たちに、ここまで怒鳴どなられたのは初めてかもしれない。


 大勢おおぜいから怒鳴どなり付けられる恐怖きょうふで、体が固まって動けなくなってしまう。


「ミャ……」


 皆さん、そんなにあせらなくても、全員助けますから、落ち着いて……。


「シロちゃんを困らせるものは、誰であろうとゆるさないニャーッ!」


「シロちゃんに治して欲しかったら、ちゃんと並んで下さいニャッ!」


 ぼくが困りてていると、横にいたお父さんとお母さんが、ぼくを救い出してくれた。


 ふたりがしかってくれたおかげで、猫たちは落ち着きを取り戻し、渋々しぶしぶといった感じで並んでくれた。


「ミャ」


 お父さん、お母さん、ありがとう。


「可愛いシロちゃんを助けるのは、当たり前ニャー」


「さぁ、シロちゃん、みんなの病気を治しましょうニャ」


「ミャ!」


 ぼくは、1匹ずつ、『走査そうさ』で診察しんさつしていく。


 お父さんとお母さんが、猫の体にノミ取り粉をり掛けたり、アロエをったり、ヨモギの薬を飲ませたりしてくれる。


 きむしっているから、ブラッシングは出来ない。


 なんで、1匹ずつ診断しんだんする必要があるかというと、違う病気にかかっている猫もいるからだ。


 ノミアレルギーに似た症状しょうじょうでも、毛包虫症にきびだにしょう皮膚糸状菌症ひふしじょうきんしょう、ストレス性の円形脱毛症えんけいだつもうしょう細菌感染症さいきんかんせんしょう、単にケガってこともある。


 こうして、ぼくたちは手分けして、集落しゅうらくの猫たちを治療ちりょうしていった。

 

 

 ――――――――――――――――


毛包虫症にきびだにしょうとは?】


 猫の体にみつく、ニキビダニが原因の皮膚病ひふびょう


 毛が抜けて円形脱毛部分ハゲになったり、フケが出たり、肌が赤くなったり、体がかゆくなったり、かさぶたがたくさん出来たりする。

 

 

皮膚糸状菌症ひふしじょうきんしょうとは?】


 猫の体に、真菌カビが生える皮膚病ひふびょう


 症状しょうじょうは、毛包虫症にきびだにしょうに似ている。


 人間に感染した場合は、水虫みずむしになる。

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