第219話 水を探して

 ぼくが倒れてから、どれくらい時間がったのかな?


 体が重くて、眠ることしか出来ない。


 お父さんとお母さんは、集落しゅうらくの猫たちは、どうなったんだろう?


 そういえば、ぼくを看病かんびょうしてくれているグレイさんは?


 肌寒はだざむさを感じて、目を開けると、暗い洞窟どうくつの中に、ひとりぼっちだった。


 周りを見回しても、誰もいない。


 あれ? グレイさんは?


 どこ行っちゃったんだろう?


 重い体をどうにか動かして、ヨロヨロとゆっくり歩き出す。


 ずっと水を飲んでいなかったから、のどがカラカラだ。


 とにかく、水が飲みたい。


 だけど、体が上手く動かないから、川まで歩けそうにない。


 そうだ! 長く雨がっていたってことは、水たまりが出来ているはずだっ!


 もう、水たまりでもなんでも、水が飲めれば良い。


 洞窟どうくつの外へ出れば、水たまりのひとつくらいはあるだろう。


 よし、頑張がんばって、水たまりを探そう。


 ピチョンピチョンと、洞窟内どうくつないに水音がひびいているのが聞こえる。


 暗いから見えないけど、雨漏あまもりでもしているのかな?


 音が反響はんきょうしているから、音で探すことも無理そうだ。


 やっぱり、洞窟どうくつの外へ出るしかなさそうだ。


 水を飲みたいという気持ちだけで、外へ向かって足を動かす。


 かなり時間が掛かったけど、やっと洞窟どうくつの入り口まで辿たどいた。


 洞窟どうくつの外は明るく、雨はすでにんでいた。


 雨のにおいをげば、さらにのどかわいて、早く水を飲みたくなる。


 洞窟どうくつの外へ出ると、すぐ近くに、大きな水たまりが出来ていた。


 とにかく、水が飲みたくて、水たまりに顔を突っ込んで、ガブガブと飲んだ。

  

 土がざっていて、美味おいしくはないけど、のどかわきは収まった。


 おなかも空いていたから、たくさん飲み過ぎちゃって、おなかがチャプチャプ鳴っている。


 でも、水を飲んだら、ちょっとだけ元気になった気がする。


 そこで、何かが近付いて来る足音に気が付いた。


 しまった! 今、何かと出くわしたら、確実かくじつに食べられるっ!


 あわてて、洞窟どうくつの中へ戻ろうとしたら、聞き覚えのある声が聞こえてくる。


『シロちゃん、やっと起きたのか! ずっと起きないから、心配したぞっ!』


「グレイさん、どこへ行っていたミャ?」


 振り向くと、そこにいたのはグレイさんだった。


 狩りから戻ってきたところらしく、足元にHyracotheriumヒラコテリウム(体長約50cmの小さいウマ)が置いてあった。


『シロちゃんを、ひとりぼっちにしてしまって、すまなかった。腹が減ったから、狩りへ行っていたんだ。シロちゃんも、食べるか?』


 ぼくが返事をするよりも先に、「ぐ~きゅるる~っ」と、おなかが鳴った。


 おなかの音を聞いて、グレイさんが吹き出すように笑い出す。


『そうか、良かった。シロちゃんも、腹が減っているんだな。じゃあ、一緒に食べようか』


「ミャ!」


 ぼくとグレイさんは、仲良くヒラコテリウムを食べた。


 とてもおなかが空いていたから、いつもよりもずっと美味おいしかった。

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