第218話 感染

 なんだか、体がおかしい。


 頭が重くて、痛くて、ぼ~っとして、ふわふわしている。


 体が熱いような寒いような、どっちなのか良く分からない感覚で、ふるえが止まらない。


 せきと鼻水とくしゃみが、止まらない。


 息苦しくて、のどが痛くて、息をする度にヒューヒューゼーゼーとのどが鳴る。


 涙が止まらなくて、目がかすんで、周りが良く見えない。


 耳も良く聞こえない。


 関節かんせつが痛いし、体が重くて動けない。


 この症状しょうじょうは、人間だった頃に経験けいけんしたことがあるから、分かる。


 これは、風邪かぜだな。


 たぶん、この集落しゅうらくの猫たちからうつされたんだ。


 お父さんとお母さんも、うつされていないといいけど。


 もしうつされてても、ぼくがいなくても、集落しゅうらくの猫たちが看病かんびょうしてくれるだろう。


「猫ヘルペスウイルス感染症かんせんしょう」ってのは、猫風邪ねこかぜ のことだったんだ。

 

 こういうところが、『走査そうさ』の悪いところだよなぁ。


 シンプルに、「猫風邪ねこかぜ」って教えてくれればいいのにさ。


 医学用語だから、難しすぎて、理解りかい出来ないことが多いんだよ。


 薬を教えてもらっても、手に入らないし。


 処置しょちが難しくて、出来ないし。


 たぶんぼくは、『走査そうさ』が教えてくれることの半分以上、理解りかい出来ていないと思う。


「これってどういう意味?」って、いちいち聞かないと、くわしく教えてくれないしさ。


 なんで、そんな地味じみなイヤがらせしてくんの?


 そもそも、『走査そうさ』って、人工知能じんこうちのうなのかな?


 もしかして、中の人がいたりする?


 今、『走査そうさ』を使ったら、どうなるのかな?


 ぼくの体がおかしいと、『走査そうさ』もおかしくなるのかな?


 あ~……ダメだ。


 熱のせいで頭がぼ~っとして、意味のないことばっかり考えちゃう。


 目を開けると、グレイさんらしき影が見えた。


 ぼんやりとしか見えないから、どんな顔をしているのか、分からない。


 でもきっと、グレイさんのことだから、物凄ものすごく心配していると思う。


 グレイさんに抱っこされてて、大きな舌でペロペロとめられる。


 そっか、グレイさんが、ぼくの看病かんびょうをしてくれているのか。


 やっぱり、グレイさんはやさしいなぁ。


 グレイさんが何か言っているみたいだけど、遠くで犬がえているみたいにしか聞こえない。


 病気になると、『走査そうさ』も使えないのか。


 でも、ぼくを看病かんびょうしてくれているのが、グレイさんで良かった。


 猫風邪ねこかぜは、猫にしか感染かんせんしないから。


 なんで、感染かんせんしないかっていうと、猫と犬は体の構造つくりが違うから。


 あと、ウィルスは、同じ動物にしか感染かんせん出来ないから。

 

 人の風邪かぜ猫風邪ねこかぜ犬風邪いぬかぜは、それぞれ別のウィルスなんだよ。


 だから、猫風邪ねこかぜは猫にしか感染かんせんしないし、犬風邪いぬかぜも犬にしか感染かんせんしない。


 グレイさん、ごめんね。


 今は何言っているのか、全然分からないや。


 病気が治ったら、またいっぱいお話ししようね。

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