第217話 雨の臭い

 ぼくは横穴よこあなの入り口に立ち、猫たちに聞こえるように大きな声で言う。


「ミャ!」


 皆さん、グレイさんが皆さんの為に、パラミスを狩って来てくれました!


 たくさん食べて、元気になって下さいっ!


 お父さん、お母さん、パラミスを中に運び込むから、お手伝いしてくれる?


「分かったニャー、お手伝いするニャー」


「シロちゃん、いつもありがとうニャ」


 ぼくが穴の外からパラミスを1匹ずつ運び入れ、入り口でお父さんとお母さんが受け取り、猫たちに配っていった。


 猫たちは、「うみゃいうみゃい」と、パラミスを美味おいしそうに食べている。


 自分たちの天敵てんてきである、トマークトゥスが狩ったものとは知らずに。


 雨でグレイさんのにおいが洗い流されているから、みんな気付いていないようだ。


 雨って、独特どくとくにおいがするよね。


 カビくさいっていうか、土臭つちくさいっていうか、川の側にいるみたいなにおい。


 何にせよ、みんな食欲しょくよくがあって良かった。


 しっかり食べた後は、雨がむまで、たっぷり寝るだけだ。


 


「ミャ」


 お父さん、お母さん、ぼくはグレイさんのところへお礼を言いに行って来るね。


「グレイさんに、『みんな喜んで食べた』と、伝えてニャー」


「シロちゃん、大丈夫ニャ? いっぱい頑張がんばって、疲れてないニャ?」   


 お母さんが心配そうな顔で、ぼくの頭をでしてくれた。


 ぼくはお母さんに向かって、笑顔で答える。


「ミャ」


 確かに疲れたけど、これはぼくにしか出来ないことだから。


 グレイさんにお礼を伝えたら、ぼくもゆっくり休むよ。


「そうニャ? じゃあ、グレイさんによろしく伝えてニャ」


「ミャ!」




 ぼくは横穴よこあなから出ると、『走査そうさ』でグレイさんを探した。


 グレイさんは、雨と風の力でけずられて自然に出来た洞窟どうくつの中で、雨宿あまやどりをしていた。


 ぼくは洞窟どうくつに入り、グレイさんに明るく伝える。


「グレイさん、ありがとうミャ。みんな、喜んで食べてくれたミャ」


『そうか! オレが狩ったネズミを、猫たちが食べてくれたか! 良かったっ!』


 グレイさんはめちゃくちゃうれしそうに笑って、ぼくを抱き寄せた。


『シロちゃんも、こんな激しい雨の中、みんなの為に良く頑張がんばったな。疲れただろう? それに、体がこんなに冷え切っているじゃないか。頑張がんばった分、ゆっくり休んでくれ』


「うん、疲れたミャ……」


 ぼくを包み込むグレイさんの体が、とってもあったかくて気持ちが良い。


 やることやったと思ったら、急に気が抜けて、ねむたくなった。


 うとうとし始めると、グレイさんがやさしい声色こわいろでそっとささやく。


『おやすみ、オレの可愛いシロちゃん』

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