第216話 猫の気象病

 さて、問題は、グレイさんが狩ってきてくれた20匹のParamysパラミス(体長約30~60cmのネズミ)を、どうやって横穴よこあなまで運ぶかなんだけど。


 ぼくひとりじゃ、こんなにたくさんのパラミスを運ぶことは出来ない。


 パラミスのしっぽをくわえて、引きずって行ったとしても、2匹が限界げんかい


 お父さんとお母さんに頼んで、運んでもらおうかな。


 でも、ふたりとも猫だかられることが苦手なんだよね。


 野生の猫にとって、体がれることは命取いのちとり。


 体が冷えると、低体温症ていたいおんしょうになったり、風邪かぜを引いたりする。


 それに猫は人間よりも、低気圧ていきあつ影響えいきょうを強く受けやすい生き物なんだ。


 低気圧ていきあつになると、頭が痛くなったり、体がダルくなったり、古傷ふるきずが痛くなったりする。


気象病きしょうびょう」は、低気圧ていきあつ原因げんいんだから、治療法ちりょうほうはない。


 雨の日は、雨風あめかぜがしのげる場所で、1日中寝て過ごすしかない。


 猫たちに、応援おうえんたのめない。


 だったら、ぼくひとりで、10往復おうふくして運ぶしかないか。


 大変だけど、出来ないことはない。


 ぼくが、パラミスのしっぽをくわえて引きずって運び始めると、グレイさんが声を掛けてくる。


『シロちゃん、まさかひとりで全部、あそこまで運ぶつもりじゃないだろうな?』


「そうだけどミャ」


『そういうことなら、オレに任せてくれ。オレなら数回で、運べるぞ』


「でも……猫たちに、グレイさんを会わせる訳にはいかないミャ」


 するとグレイさんは、うれしそうに笑ってしっぽを振る。


『今、集落しゅうらくには、誰もいないのだろう? だったら、オレが堂々どうどうと入っても問題ない。それに、雨がっているから、においも誤魔化ごまかせる。横穴よこあなにいる猫たちから見えない場所まで、こっそりと運べば良い』


「なるほどミャ! グレイさん、かしこいミャッ!」


『そうだろうそうだろう。どうだ? れ直したか?』


「うん、カッコイイミャ!」


『ふふっ、そうか。オレも毎日、シロちゃんの可愛さにれ直しているぞ。では、さっそく運ぶか』


「グレイさんが、全部運ぶのは大変ミャ。ぼくも、手伝うミャ」


『シロちゃんのそういうところが、好きだぞ。よし、じゃあ、オレたちふたりの愛の共同作業きょうどうさぎょうだ。やるぞ』


「ミャ!」


 ぼくとグレイさんは手分けして、横穴よこあなの側まで、パラミスを運んだ。


 グレイさんが手伝ってくれたおかげで、本当にすぐ終わった。


 あとは、横穴よこあなの中へ運び込むだけだ。


「グレイさん、助かったミャ! ありがとうミャッ!」


『シロちゃんと、猫たちの役に立ててうれしいよ。みんなでたくさん食べて、元気になってくれ。それじゃあな』


 そう言って、グレイさんが立ち去ろうとしたので、あわてて呼び止める。


「グレイさん、どこに行くミャ?」


『オレは、猫たちの目の届かないところで、ひとりで雨宿あまやどりするよ』


 さびしそうにれるグレイさんのしっぽを見て、可哀想かわいそうになった。

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