第215話 会わせられないお友達

 この集落しゅうらくおさのトビキジに、挨拶あいさつを済ませた後。


 ぼくが再び外へ出て行こうとすると、後ろからトビキジに呼び止められた。


仔猫こねこのお医者さん、どこ行くにゃん?」 


「ミャ」


 今、ぼくのお友達のグレイさんが、皆さんの為に狩りをしています。


 グレイさんにも、集落しゅうらくの猫たちがここに避難ひなんしていることを伝えてきます。


「だったら、ワタシも一緒に行くにゃん。そのお友達にも、ひとことお礼を言わないと」


「ミャ」


 いえ、ぼくだけで大丈夫です。


 おさは、皆さんと一緒にここにいて下さい。


 雨にれたら、病気が悪くなってしまいますよ。


「じゃあ、 グレイさんをここに連れて来てにゃん。みんなで、雨が止むまでここにいたら良いにゃん」


「ミャ」


 くわしい事情じじょうは話せませんが、グレイさんはここには来られません。


 グレイさんが狩ってきてくれた獲物えものは、ぼくが代わりにここまで持ってきます。


 あと、雨が止むまで、ここから出ないで下さいね。


「良く分からないけど、分かったにゃん。じゃあ、グレイさんに『ありがとう』と伝えてにゃん」


 トビキジは、不思議そうに首をかしげていたけど、横穴よこあなから出ようとはしなかった。


 雨がはげしくなってきたから、れたくなかったのかもしれない。


 もし、「なんとしても絶対にグレイさんと会いたい」と言われたら、どうしようかと思った。


 トマークトゥスと猫たちを、会わせる訳にはいかないもんね。


 ぼくは雨に打たれながら、誰もいなくなった集落しゅうらくを出た。


 集落しゅうらくから少しはなれたところにある大きな木の下で、グレイさんが雨宿あまやどりをしていた。


 グレイさんの足元には、 Paramysパラミス(体長約30~60cmのネズミ)が20匹くらい転がっていた。


『おお、シロちゃん、待っていたぞ。言われた通り、ネズミを狩ってきたんだが、これで足りるかな?』


「グレイさん、お疲れ様ミャ。たくさん狩ってきてくれて、ありがとうミャ。これだけあれば、みんなで食べられるミャ」


『それは良かった。ところで、集落しゅうらくの猫たちはどこだ? 1匹も、姿が見えないようだが』


「雨がってきたから、集落しゅうらく猫たちはみんな、あの横穴よこあな避難ひなんしているミャ」


 ぼくが横穴よこあな指差ゆびさすと、グレイさんはホッとした顔でため息を吐く。


『そうだったのか。てっきり、シロちゃんが猫たちを連れてどこかへ行ってしまって、オレだけ置いて行かれたかと思ったよ』


「ぼくが、グレイさんを置いて行く訳がないミャ」


『ああ、そうだな……愛し合うふたりが、はなれることはない。シロちゃんが、オレを置いて行くはずはないよな。永遠の愛を、うたがってしまって、すまなかった』


 グレイさんは、うっとりとした顔で愛を語り出し、ぼくをギュッと強く抱き締めると、物凄ものすごいきおいでぼくの顔をめ始めた。


 相変わらず、ぼくへの愛が超重力級ちょうじゅうりょうきゅう世界チャンピオンだな。

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