第214話 避難指示

 突然、冷たい風が吹いてきたかと思うと、雨がり出した。


 マズい! 雨で体を冷やしたら、ただでさえ病気で弱っている猫たちが、もっと弱ってしまうっ!


 とにかく早く、猫たちを雨が当たらない場所に移動させないと。


 周りを見回して、雨風あめかぜがしのげそうな場所を探す。


 だけどぼくは、この集落しゅうらくに来たばかりだから、どこに何があるのかが分からない。


 自分で探すより、集落しゅうらくの猫に聞いた方が早そうだ。


「ミャ?」


 すみません、この集落しゅうらくには、雨風あめかぜがしのげそうな場所はありますか?


「それなら、あっちに、大きな横穴よこあながけかべられた穴)があるにゃん」


 トビキジがらの猫が指差ゆびさした先には、大きな崖壁がんぺきがあった。


 岸壁がんぺきには、大きな穴が開いていた。


「雨がった時は、みんなであそこに入ることになっているにゃん」


 イチモツの集落しゅうらくでは、雨がり出したら、イチモツの巨木きょぼく根元ねもとへ集まる決まりになっている。


 イチモツの巨木きょぼくは、「猫神様ねこがみさまの木」と信じられていて、「猫たちを守ってくれる」という言いつたえがあるんだ。


 この集落しゅうらくでは、横穴よこあな避難ひなんするらしい。


 そうと決まれば、猫たちを横穴よこあなへ移動させよう。


 自分の足で歩ける猫は、自分の足で横穴よこあなへ行ってもらう。


 動けない猫は、みんなで力を合わせて運ぼう。


「ミャ!」


 皆さん、雨が強くなって来ました!


 急いで、横穴よこあな避難ひなんして下さいっ!



 ぼくは集落しゅうらくの猫たちに、声を掛けて回った。


 猫たちはみんな、ぼくの指示しじしたがって、横穴よこあなへ入って行く。


 横穴よこあな避難ひなんした猫たちは、冷えた体を温め合うようにせ合って、ねこねこだんごになった。


「シロちゃん、集落しゅうらくの猫たちはみんな、ここに運び込んだニャー」


「ミャ」


 ありがとう、お父さん、お母さん。


 ふたりは、みんなと一緒にここにいて。


 ぼくはねんため、逃げ遅れた猫がいないか、確認して来るね。


「分かったニャ。シロちゃん、気を付けてニャ」




 ぼくは横穴よこあなを飛び出すと、逃げ遅れた猫はいないかと、集落しゅうらくを走り回った。


 取り残された猫がいないことを確認してから、横穴よこあなへ戻った。


「ミャ?」


 集落しゅうらくの猫は、全員いますか? 


「全員いるにゃん」


 ぼくの問い掛けに、さっきのトビキジネコが答えてくれた。


「ミャ?」


 もしかして、あなたがこの集落しゅうらくおさですか?


「ああ、ワタシが集落しゅうらくおさのトビキジにゃん。仔猫こねこのお医者さん、病気で挨拶あいさつとお礼が遅れてしまって、すまなかったにゃん。みんなを助けてくれて、ありがとうにゃん」


 トビキジはそう言って、やさしく微笑ほほえんだ。

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