第210話 もう全部あいつひとりでいいんじゃないかな

「シロちゃん、今度はどこ行くニャー?」


「ミャ」


 お父さんの質問に、ぼくは「まだ決めてない」と答えた。


 イチモツの森には、猫の集落しゅうらくがいくつもあると、ミケさんが言っていた。


 ミケさんは、森の中を歩き回って、ほかの集落しゅうらくを探したのだろうか。


 それとも、てもなく歩いていたら、たまたま辿たどり着いたのだろうか。


 ぼくが、イチモツの森の中で見つけた猫の集落しゅうらくは、ふたつだけだ。


 イヌノフグリの集落しゅうらくの先には、キランソウの集落しゅうらくがあるんだけど。


 キランソウの集落しゅうらくでは、ひと騒動そうどうあったんだよね。


 ぼくが調子に乗って、何度も助けちゃったもんだから、集落しゅうらくおさが、ぼくのことを「救世主きゅうせいしゅ」だと勘違かんちがいしちゃってさ。


 悪いことに、ぼくを便利な道具のように使おうとしたから、お父さんとお母さんを怒らせてしまったんだ。


 お父さんとお母さんが、「キランソウの集落しゅうらくには、二度と行かないニャー!」と、キレ散らかしていたからな。


 キランソウの集落しゅうらくには、もう行けない。


 となれば、まだ行ったことがない、ほかの集落しゅうらくを探そう。


 ほかの集落しゅうらくへは、どうやって行こうか。


走査そうさ』を使えば、簡単に探せるんだけど。


 新しい集落しゅうらく訪問ほうもんするだけが、旅の目的じゃない。


 前みたいに行くてを決めずに、のんびりと気ままな旅を楽しみたい。


 旅の途中で、ケガや病気で苦しんでいる猫を探したり、狩りをしたり、新しい薬草を見つけたい。


 ぼくたちはキランソウの集落しゅうらくの反対方向へ向かって、歩き出した。




 お散歩するように、4匹で仲良くおしゃべりしながら、森の中を歩いて行く。


 グレイさんがいるおかげか、危険生物と会うことはなかった。


 このあたりで、トマークトゥスにかなう動物は少ないんじゃないかな。


 グレイさんは狩りも得意だし、穴をるのも上手なんだよ。


 以前の旅では、夜になったら、ほかの動物がんでいた空巣あきすを探して、寝ていたんだけど。


 今は、グレイさんがみんなで入れる巣穴すあなってくれるんだ。


 巣穴すあなに入ると、安心感があって良く眠れる。


 もう全部、グレイさんひとりで良いんじゃないかなって思っちゃうくらい、なんでも出来ちゃって、すごたのもしいんだよね。


 だけど、お父さんとお母さんもいてくれないと困る。


 お父さんとお母さんがいるだけで、ぼくの猫をでたい欲求よっきゅうが満たされる。


 もちろん犬も可愛いけど、猫の可愛さとは、可愛さの方向性が違う。




 ぼくは、横を歩いているグレイさんにニッコリと笑い掛ける。


「やっぱり、グレイさんが一緒に来てくれて良かったミャ」


『オレも、シロちゃんと旅が出来て、とてもうれしいし楽しいぞ。こうして、可愛い猫たちと仲良く旅をするのが、オレの夢だったんだ』


 グレイさんもうれしそうに、ぼくに笑い返して、しっぽを振った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る