第209話 行きたくても行けない

 ぼくは集落しゅうらくを出ると、いつものように『走査そうさ』に案内してもらって、グレイさんの元へ向かった。


「グレイさん、お待たせ!」


『シロちゃん、待っていたぞ! 今日も、一緒に狩りをしようっ!』


 グレイさんはぼくを見ると、うれしそうにけ寄って来て、体をすり寄せた。


 ぼくも、グレイさんに体をすり寄せながら、明るく言う。


「今日は狩りじゃなくて、旅のお誘いに来たミャ。新入りの猫たちはすっかり元気になったし、集落しゅうらくの生活にもれたみたいだからミャ。茶トラ先生にも、行って良いって許可きょかをもらったミャ」


『そうか! やっと行けるんだなっ! 旅へ出るのはいつだ? 今日か? 明日か? オレはいつでも行けるぞっ!』


 グレイさんは明るい笑顔になって、ちぎれんばかりにしっぽをブンブン振り出す。


 本当に、グレイさんは旅が好きだなぁ。


 お散歩に行きたくて待ちきれない、わんこみたいだ。


「今日行くつもりミャ。でも、集落しゅうらくのみんなに、おわかれのご挨拶あいさつをしてくるから、それまでここで待ってて欲しいミャ」


『ああ、いつ戻って来られるか分からないからな。挨拶あいさつは、きちんとませていった方が良いだろう』


「じゃあ、またあとでミャ」


『ゆっくりと、わかれをしんでくると良い。オレは、ここで待っているからな』


 ぼくはグレイさんと待ち合わせの約束をして、一旦いったん集落しゅうらくへ戻った。




 集落しゅうらくの猫たちにも、旅へ出ることを伝えると、わかれをしまれた。


 特に、新入り猫たちの反応はスゴかった。


仔猫こねこのお医者さん、我々を置いて、どこへ行くニィッ?」


「ニャニャッ? もうどっか行っちゃうニャンッ?」


「行かないで」と、すがりつかれて、ニャーニャー鳴かれてしまった。


 困ったなぁ……「行かないで」って、すがりつかれたら、行きたくても行けないじゃん!


 だって猫、可愛いんだもんっ!


 困りてていると、茶トラ先生がやって来て、ぼくの頭をで撫でしながら、みんなへ向かって話し出す。


「皆さん、シロちゃんを困らせちゃダメニャ~。シロちゃんはこれから、皆さんのように、ケガや病気で苦しんでいる猫たちを助ける旅へ出るニャ~。だからみんな、シロちゃんを笑顔で送り出してあげて欲しいニャ~」


 茶トラ先生の話を聞いて、新入りの猫たちは納得なっとくして、ぼくをはなしてくれた。


 さすがは、茶トラ先生、説得せっとくが上手い。


「ミャ!」


 いつか必ず戻って来ますから、皆さんもどうかお元気で!


「いってらっしゃーいニィ!」


「元気で帰って来てニャン!」


 ぼくとお父さんとお母さんは、集落しゅうらくの猫たち全員にお見送りされて、旅立った。


 約束していた場所でグレイさんとも合流して、ようやく3度目の旅が始まった。

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