第203話 過疎集落からの引っ越し

 イヌノフグリの集落しゅうらくの猫たちの数は、ずいぶん減ってしまった。


 勇敢ゆうかんな猫たちや集落しゅうらくおさは、弱い猫たちを逃がす為に、ヒアエノドンに立ち向かって食べられてしまった。


 生き残った猫たちも、みんな傷だらけで弱っている。


 ぼくたちが、しばらくここにとどまって、みんなの看病かんびょうをすることも出来るけど。


 狩りが出来る猫も、集落しゅうらくおさもいない今、ぼくたちが旅立った後に、全滅ぜんめつしかねない。


 再び、この集落しゅうらくを訪れた時、誰もいなくなっているかもしれない。


 この猫たちを、放っておくことは出来ない。


 かといって、旅に連れて行くことも出来ない。


 どうしたもんかと、お父さんとお母さんに相談してみる。


「ミャ?」


「確かに、このままではみんな死んじゃうニャー」


「だったら、イチモツの集落しゅうらくへお引っ越しさせたらどうニャ? イチモツの集落しゅうらくには、茶トラ先生がいるから安心ニャ」


「ミャ!」


 それだ! お母さん、かしこいっ! 


 猫たちの安全を考えるなら、イチモツの集落しゅうらく避難ひなんしてもらった方が良い。


 イチモツの集落しゅうらくからイヌノフグリの集落しゅうらく距離きょりは、そう遠くない。


 歩ける猫は、ゆっくりでも良いから自分で歩いてもらう。


 歩けない猫は、他の猫たちに運んでもらおう。


 急ぐ旅じゃないんだから、一度、戻ってもかまわない。


 一番大事なところは、イヌノフグリの集落しゅうらくの猫たちが、この土地からはなれられるかどうか。


 あと、イチモツの集落しゅうらくの猫たちが、この猫たちを受け入れてくれるかどうか。


 猫は、環境かんきょうの変化をきらう生き物。


 ちょっと、部屋の模様替もようがえするだけでも、猫にとっては大きなストレスになるんだよ。


 人間だって、生まれ故郷こきょうや住みれた環境かんきょうがあるでしょ?


 愛着あいちゃくのある場所からお引っ越しするのは、切ない気持ちになるよね。


 猫だって、れた縄張なわばりから離れるのは切ないんだ。


 あとはどうにか、猫たちを説得せっとくするしかないな。




 ぼくは、生き残った猫たちを集めて、「イチモツの集落しゅうらくへお引っ越ししてくれませんか?」と、お願いした。


 思った通り、猫たちは「この集落しゅうらくから離れたくないニャー」と、首を横に振った。


 ぼくはみんなに向かって、懸命けんめいたのみ込む。


「ミャ」


 ここにいたら、みんな死んでしまいます。

 

 お願いですから、イチモツの集落しゅうらくへお引っ越ししてもらえませんか?


 ぼくのお願いを聞いて、猫たちは戸惑とまどった顔で、お互いに顔を見合わせている。


 猫たちは少し話し合った後、ぼくに向かって笑い掛けてくる。


「シロちゃんは、何度もボクらを助けてくれたニィ。だから、シロちゃんの言う通りにするニィ」


「ここを離れるのはとってもさびしいけど、死にたくないからニャン」 


 こうして、イヌノフグリの集落しゅうらくの猫たちは、イチモツの集落しゅうらくへお引っ越しすることになった。

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