第200話 イヌノフグリの集落

 イチモツの集落しゅうらくの近くには、イヌノフグリの集落しゅうらくがある。


 イヌノフグリの群生地たくさん生えている場所だから、その名を付けたという。


 イヌノフグリの開花時季かいかじきは、3月~5月。


 ちょうど、花が見頃みごろむかえている頃じゃないかな。


 名前はアレだけど、イヌノフグリの花はちっちゃくって可愛いんだよね。


 イヌノフグリの集落しゅうらくには、2回だけおとずれたことがある。


 猫風邪ネコカリシウイルス感染症と秋の花粉症かふんしょうで、苦しんでいた猫たちの治療ちりょうおこなった。


 今頃、イヌノフグリの集落しゅうらくの猫たちは、元気だろうか。


「ミャ」


 お父さん、お母さん、この近くに、イヌノフグリの集落しゅうらくがあるんだけど、おぼえている?


 ちょっと立ち寄って、軽く挨拶あいさつしていきたいんだけど、いいかな?


「シロちゃんが行くなら、一緒に行くニャー」


「私達は、シロちゃんが行きたいところなら、どこでもついて行くニャ」


 お父さんとお母さんは笑顔で、ぼくのあんを受け入れてくれた。


 グレイさんにも、簡単かんたん事情じじょうを説明すれば、大きくうなづいてくれた。


『もちろん良いぞ。オレは、猫たちを怖がらせないように、ここで待っているから、3匹で行って来てくれ』


「ありがとうミャ。じゃあ、グレイさんはここで待っててミャ。何かあったら、知らせに来るミャ」


『何かあったら、早めに教えてくれ。いってらっしゃい』


「分かったミャ。いってきますミャ」


 グレイさんに見送られて、ぼくとお父さんとお母さんの3匹は、イヌノフグリの集落しゅうらくへと向かった。


 だんだんと近付いて行くと、集落しゅうらくの方角から、血生臭ちなまぐさい風が吹いてきた。


 血のにおいをいで、いやな予感がしたぼくたちは、イヌノフグリの集落しゅうらくいそいだ。



 イヌノフグリの集落しゅうらく辿たどくと、悲惨ひさんな状況だった。


 あちこちに、たくさんの傷付いた猫たちが倒れていた。


 近くに倒れていた猫へけ寄って、声を掛ける。


「ミャッ?」


 大丈夫ですかっ?


 ぼくは、イチモツの集落しゅうらくのシロです。


 すぐに、傷の手当をしますからね。


仔猫こねこのお医者さんニィ……? 良かった、やっと助けに来てくれたニィ? 早く助けてニィ……」


 やっと助けに来た?


 何かあったんですか?


「ヒアエノドンのれが、おそってきたんだニィ……何匹かは、食べられちゃったニィ……」


 傷だらけの猫は、悲しみとくやしさが混ざった顔でそう言った。


 イチモツの集落しゅうらくおそってきたヒアエノドンの群れは、グレイさんが追い払ってくれた。


 イチモツの集落しゅうらくを追い出されたヒアエノドンのれは、イヌノフグリの集落しゅうらくおそったんだ。

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