第197話 ボス猫にふさわしい猫

「シロちゃん、集落しゅうらくおさになってくれないかニャ~?」


 まさかのご指名しめいに、何度も首を横に振る。


「ミャッ!」


 ぼくが集落しゅうらくおさになるなんて、絶対無理ですっ!


 だってぼくは、おさになれるようなうつわ(その地位ちいにふさわしい才能さいのうを持っている者)じゃありません。


 それに、この集落しゅうらくには、ぼくより年上の猫たちがたくさんいます。


「みんなから信頼しんらいされている」という点なら、茶トラ先生が相応ふさわしいのではないでしょうか?


 誰よりも優しく、お医者さんとしてケガや病気を治し、みんなから必要とされていますよね?


 だからぼくは、茶トラ先生を推薦おします。


「でも私は、イチモツの木に登ることが出来なかった、弱い猫だからニャ~」


 茶トラ先生は、困り顔でそう言った。


 イチモツの集落しゅうらくの決まりで、1歳をむかえた猫は「成獣おとな儀式ぎしき」として、イチモツの巨木きょぼくに登らなければならない。


 イチモツの巨木きょぼくを登り、その実を取って来た猫だけが、「立派な成獣おとな」とみとめられ、猫神ねこがみから特別な力をさずかる。


 ぼくもイチモツの実を食べて、『走査そうさ』をさずかった。


 お父さんは狩りが上手で、動物にくわしい。


 他にもイチモツの実を食べて、強くなった猫がたくさんいる。


 だけど、イチモツの巨木きょぼくに登れない弱い猫もいる。


 弱い猫は、力をられないばかりか、ひとりで集落しゅうらくの外へ出ることもゆるされない。


 単純たんじゅんに、弱い猫が集落しゅうらくを出たら、天敵てんてきねらわれやすいからって理由りゆうなんだけどね。


 イチモツの巨木きょぼくに登れなかった茶トラ先生は、一度も狩りをしたことがないそうだ。


 そこで茶トラ先生は、「せめて、みんなの助けになりたい」と、お医者さんになったそうだ。


 ちょうど、先代せんだいのお医者さんも、次のお医者さんになってくれる猫を探していた頃だったらしい。


「それに、今、イチモツの集落しゅうらくを守ってくれているのは、あのトマークトゥスニャ~。あのトマークトゥスをしたがえているのは、シロちゃんニャ~」


「ミャ」


 そんなこと言われましても……ぼくは近いうちに、グレイさんと一緒に旅へ出る約束をしているんです。


 ぼくが旅へ出たら、誰が集落しゅうらくを守るんですか?


 それに、グレイさんを「したがえている」なんて言い方は、やめて下さい。


 グレイさんは、ぼくの大事なお友達です。


「気を悪くしたなら、すまなかったニャ~。シロちゃんのお友達を、バカにしたつもりはないニャ~。ただ、集落しゅうらくを守れる力を持っているシロちゃんが、おさになるのが相応ふさわしいと思っただけニャ~」


 茶トラ先生は、申し訳なさそうにあやまり、深々とため息を吐いた。

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