第195話 最期の贈り物

 ぼくにとってミケさんは、おばあちゃんのような存在だった。


 いつもやさしくて、悪いことをしたらちゃんとしかってくれた。


 お父さんやお母さんと同じくらい、大好きだった。


 かけがえのないミケさんがくなったことは、やっぱりとても悲しかった。


 野生の猫の寿命じゅみょうは、長くても5歳。


 長く生きられないことは、最初から知っていた。


 分かっていても、悲しいものは悲しい。


 旅の途中とちゅうで、何度か猫が死ぬところを見たけれど。


 ミケさんを失った悲しみは、あの時の何倍も大きい。


 ぼくは、ぬくもりが残るミケさんのご遺体いたいに抱き着いて、大声で泣きじゃくった。


 集落しゅうらくの猫たちも、ミケさんが命を落としたことを知り、深く悲しんでいる。


 みんなも涙を流して、ミケさんの死をしんでいる。


 穴掘あなほりが得意な猫たちは、ミケさんをめる穴をってくれた。


 猫たちは協力きょうりょくして、ミケさんを穴の中に入れた。


 ぼくは、たくさんお花をんできて、ミケさんをかこんだ。


 花をささげるのは、くなった相手の冥福めいふく(死後の幸せ)をいのる気持ちを込めた、最期さいごおくり物だそうだ。


 花をめるぼくを見て、猫たちは不思議そうに首をかしげていた。


 説明をしても、猫たちにはきっと分からないだろう。


 お葬式そうしきをするのは、人間だけだから。


 集落しゅうらくの猫たちが、ミケさんに土を掛けてめていく。


 少しずつ、ミケさんの体が見えなくなっていく。


 ミケさんの体が完全に見えなくなるまで、目をはなせなかった。


 ミケさんの姿を見られるのは、これが最後だから。


 ミケさんがくなってから、涙が止まらない。


 思い返せば、ぼくは小さい頃から、ミケさんに心配や迷惑めいわくばかり掛けていた。


 ぼくは優しいミケさんに甘えてばかりで、何もおんを返せなかった。


 もっと、一緒にいたかった。


 もっと、側にいてあげれば良かった。


 いくらいても、もう遅い。

 

 でも、最期さいご看取みとることが出来て良かった。


 看取みとることが出来なかったら、きっともっと後悔こうかいしていた。


 「シロちゃん、大丈夫ニャ? 毛づくろいしてあげるニャ」


 涙でぐしょぐしょになってしまったぼくを心配して、お母さんが優しくなぐさめてくれた。


 お父さんも、ぼくの頭をでしながら言う。


「ミケさんは、仲間想なかまおもいのとっても優しくて立派な長老ちょうろうだったニャー。早く次の集落しゅうらくおさ(リーダー)を、決めなきゃいけないニャー」


 お父さんが言う通り、悲しんでばかりもいられない。


 集落しゅうらくを守る為に、次のおさを決めなければならない。


 全員集まって、「誰が、次のおさになるべきか」を真剣しんけんに話し合い始めた。

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