第192話 グレイさんの幸せ

 なんやかんやあって、グレイさんはイチモツの集落しゅうらくを守ってくれることになった。


 しかし、集落しゅうらくに近付くことは出来ないから、集落しゅうらくから少しはなれた場所に、巣穴すあなってらしている。


 本来ほんらい、オオカミが巣穴すあなるのは、母親が子供を守る為なんだけど。


 グレイさんは、自分がかくれる為にったそうだ。


 ミケさんに、「出来る限り、猫たちの目に付かないで欲しい」と、言われているから。


 猫が狩りで集落しゅうらくから出て来たら、巣穴すあなに飛び込むようにしているらしい。


 オオカミは嗅覚きゅうかくするどいから、猫が近付いてきたらすぐ分かるそうだ。


 猫も、においでグレイさんの場所が分かるから、巣穴すあなには近付かない。


 せっかく、猫の集落しゅうらくの近くにんでいるのに、猫に近付くことも、見ることも出来ない。


 そんなグレイさんが可哀想かわいそうで、ぼくはお父さんとお母さんと3匹で、毎日、グレイさんの巣穴すあなへ遊びに行っている。


 一緒に狩りをして、ごはんを食べて、お散歩したり、追いかけっこしたり、お昼寝したりして、仲良く楽しく過ごしている。


 そういえば、いつの間にか、グレイさんは、自分の歯でお肉をみちぎって食べられるようになっていた。


「グレイさん、歯は大丈夫ミャ?」


『ちゃんとシロちゃんに言われた通り、つのをガジガジしているからな。だいぶ、痛みはおさまったぞ』


「ちょっと見せてもらって良いミャ? あ~んしてミャ」


『いいぞ。あ~……』


 グレイさんに大きく口を開けてもらって、歯の状態を調べる。


 けた歯や虫歯は、専用の道具でけずり、め物をしないかぎなおらない。


 だけど、かたつのむことで、歯の表面がけずれて、黄色かった歯は白くなっていた。


 歯石しせき歯垢しこうがなくなったのを確認して、ぼくはうれしくなる。


歯磨はみがきの効果こうかが、ちゃんと出ているみたい良かったミャ」


 グレイさんは口を閉じると、ぼくを見つめて、うれしそうに笑う。


『シロちゃんのおかげで、美味しくお肉を食べられるようになったんだ。本当に、感謝してもしきれないよ』


「ぼくは、そんなに感謝されるようなことはしてないミャ」


『何を言うか。オレはシロちゃんと出会ってからというもの、【こんなに幸せでいいのか】と、いつも思っているんだ』


「グレイさんは、今、幸せなのミャ?」


『ああ、もちろん』


「……グレイさんは、猫たちにきらわれてて、悲しくないミャ?」


『トマークトゥスだから、きらわれるのは当然だ。それでも、シロちゃんは、こうしてオレに会いに来てくれるだろう? シロちゃんだけが、オレの悲しみを理解りかいして、いやしてくれる。シロちゃんがいてくれるだけで、オレは幸せなんだよ』


 グレイさんはそう言って、本当に幸せそうに笑った。


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 ※諸事情しょじじょうにより、投稿が遅くなりまして、誠に申し訳ございませんでした。

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