第190話 愛猫家の献身

集落しゅうらくの猫が1匹も食べられなかったのは、グレイさんのおかげにゃ。もし、グレイさんさえよければ、これからもイチモツの集落しゅうらくを守って欲しいにゃ」


 ミケさんの申しに、グレイさんは信じられないという顔をしている。


 グレイさんは、「猫の集落に入ることが夢だった」と言っていた。


 トマークトゥスの大きなれは、猫をおそう目的で、集落しゅうらくへ入ってくることがあるらしい。


 だけど、グレイさんは純粋じゅんすいに、猫と仲良くなりたくて、集落しゅうらくに入りたいんだ。


 一方、集落しゅうらくの猫たちは、グレイさんを見てビビり散らかしている。


 集落しゅうらくの猫たちも、ヒアエノドン(ハイエナに似た猛獣もうじゅう)から助けてもらったことはおぼえているし、感謝かんしゃもしている。


 しかし、猫は本能的ほんのうてき天敵てんてきおそれる。


 理解りかいはしていても、怖いものは怖い。


 グレイさんは、いとおしいものを見る目で、猫たちを見つめている。


『ああ、猫たちがオレを見て、おびえているじゃないか。可哀想かわいそうだけど、おびえている姿もめちゃくちゃ可愛いな』


「グレイさん、その発言は変態へんたいミャ」


 ぼくが思わずツッコミを入れると、グレイさんはイタズラっぽく笑いながら、ぼくに体をすり寄せる。


『他の猫たちに見惚みとれてしまって、悪かったな。もしかして、嫉妬しっとしてくれたのか? ふふっ、嫉妬しっとするシロちゃんも可愛いぞ。だが、オレが愛しているのはシロちゃんだけだから安心してくれ』


嫉妬しっとなんて、してないミャ」


『それで、オレは集落しゅうらくへ入ってもいいのか?』

 

 グレイさんの質問しつもんに、ミケさんは首を横にる。


「申し訳ないけど、ここから先はワシら猫の縄張なわばりにゃ。集落しゅうらくに入ることは、許可きょか出来ないにゃ」


「ミャ?」


 ミケさん、それはどういうことですか?


 グレイさんには、集落しゅうらくは守って欲しい。


 でも、集落しゅうらくには入らせたくない。


 そんな、一方的いっぽうてき要求ようきゅうがありますか?


「ワシだって、むちゃくちゃな話をしていることは分かっているにゃ。だが、ワシは長老ちょうろうとして、集落しゅうらくの猫たちを守らなくてはならないにゃ。分かってにゃ、シロちゃん」


 ミケさんは、ぼくにやさしく言い聞かせてきた。


 でも、そんなことは、納得なっとく出来ない。


 ぼくは怒りながらも、グレイさんにミケさんの要求ようきゅうを伝えた。

 

 グレイさんも、絶対怒ると思っていた。


 だけど、グレイさんはさびしそうな顔をしながらも、小さく笑みを浮かべる。


『いや、オレも無茶むちゃを言って、すまなかった。トマークトゥスが猫の集落しゅうらくへ入れないことは、初めから分かっていたんだ。それでも、可愛い猫たちを守らせてもらえるだけで、オレは幸せだよ』


 優しすぎるグレイさんの深い愛情に、ぼくはやるせない気持ちになった。

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