第189話 ネコの国は近づいた

 ミケさんが、グレイさんと会いたいと言うなんて。


 これは、もしかすると、ぼくとグレイさんが一緒にいられることを、ゆるしてもらえるかもしれないぞ。


「ミャ!」


 分かりました、すぐにグレイさんを連れてきます!


 ぼくはうれしくなって、け出した。


 グレイさんは、さっきわかれたばかりだから、そう遠くへは行っていないはず。


 グレイさんがどこにいるか、教えて! 『走査そうさ』!


対象たいしょう:食肉目イヌ科イヌ属トマークトゥス』


個体名なまえ:グレイ』


位置情報いちじょうほう右折うせつ20m、直進ちょくしん100m先』


 やっぱり、すぐ近くにいた。


走査そうさ』の案内通りに走れば、グレイさんの後ろ姿を見つけた。


「グレイさん!」


『シロちゃん? まだ夜も明けていないのに、ひとりで集落しゅうらくを飛び出してきたら、危ないじゃないか。まさか、オレに会いたくて来ちゃったのか?』


 グレイさんはうれしそうに、しっぽを振りながら振り向いた。


 ぼくはにっこり笑って、グレイさんに飛び付いて、スリスリと体をこすり付ける。


「そうミャ!」


『そうか! やはり、オレとシロちゃんは、はなれられない運命うんめいなんだなっ!』


 グレイさんもぼくを抱き締めて、体をすり寄せた。


 おたがいにスリスリしながら、ぼくはグレイさんに向かって明るく言う。


「あのね、ミケさん……えっと、集落しゅうらく長老ちょうろうが、グレイさんと直接会って、お話しがしてみたいって言っているミャ」


『何? 集落しゅうらく長老ちょうろうが、オレに会いたいだと? それはいったい、どういうことだ?』


「あ」


 グレイさんは不思議そうな顔で、首をかしげている。


 そういえば、なんでミケさんがグレイさんを呼んで欲しいのか、理由りゆうを聞くのを忘れた。


「きっと良いことなんだろう」って、ちっともうたがわなかったんだよね。


理由りゆうは分からないけど、とにかく、一緒に来て欲しいミャ」


『分かった。何はともあれ、猫の集落しゅうらくに入るのは、オレの夢だったからな。よろこんで、お呼ばれしようじゃないか』


 ぼくは、大喜おおよろこびのグレイさんを連れて、集落しゅうらくへ戻った。



 集落しゅうらくの少し手前てまえで、ミケさんが待っていた。


「シロちゃん、おかえりにゃ。そのトマークトゥスが、グレイとやらにゃ?」


「ミャ」


 はい、そうです。


 グレイさんは猫語ねこごしゃべれないから、ぼくが通訳つうやくしますね。


「では、シロちゃん、よろしくたのむにゃ。トマークトゥス、いや、グレイさん。ワシらの集落しゅうらくを助けてくれて、大変感謝していると、伝えて欲しいにゃ」


『いや、礼を言われるまでもない。オレは可愛い猫たちを、何よりもオレの運命の相手であるシロちゃんを、心から深く愛しているからな。愛するものを守るのは、当然のことだ』


 グレイさん、愛が重すぎて、通訳つうやくしにくいです……。

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