第188話 眠れない夜

 グレイさんを見送った後、ぼくは毛づくろいしてにおいを消してから、イチモツの集落しゅうらくへ戻った。


 集落しゅうらくに戻る頃には、猫たちはみんな、岩壁がんぺきからりてきていた。

 

 ヒアエノドンのれが去った後も、みんな落ちかない様子でソワソワしている。


 あやうく、ヒアエノドンに食べられるところだったんだ……無理もない。


「まだ、ヒアエノドンたちが近くにいるかもしれない」と、不安と心配でいっぱいなんだ。


 誰も巣穴すあなに戻ろうとせず、集落しゅうらくの真ん中で、せ合ってふるえている。


 今夜はきっと、誰もねむれない。


 集落しゅうらくへ戻って来たぼくに、ミケさんが呆れたような顔で話し掛けてくる。


「シロちゃんは、あのトマークトゥスとはおわかれして、この地を立ち去ったと言ってなかったかにゃ?」


「ミャ」


 はい、確かに、グレイさんとはおわかれしました。


 ですが、グレイさんは、ヒアエノドンのれがイチモツの集落しゅうらくおそうと気付いて、助けに来てくれたそうです。


「にゃんとっ?」


 ぼくの説明を聞いたミケさんは、とてもおどろいた。


 トマークトゥスが猫を助けるなんて、あり得ないことだからだ。


「ぼくのことが大好きすぎて、ここからはなれられなかった」という話は、グレイさんがかくしたがっていたから、だまっておこう。


 ミケさんは、信じられないといった口調くちょうで聞き返してくる。


「なんでにゃ?」


「ミャ」


 グレイさんは、猫が大好きだからです。


 それに、ぼくの大事なお友達です。


 グレイさんは、絶対にぼくたちを守ってくれるって、約束してくれました。


「そうにゃのか……シロちゃんの話は、本当だったんだにゃ」


 ミケさんは、しみじみとした顔で何度もうなづいた。


 ミケさんや集落しゅうらくの猫たちは、グレイさんと会ったことがない。


 グレイさんと話が出来るのは、『走査そうさ』を使えるぼくだけだし。


 グレイさんと直接会ったのも、お父さんとお母さんだけ。


 あとは、偵察部隊ていさつぶたいの猫たちが、「トマークトゥスが、集落しゅうらくの周りをウロウロしている」ってのを、遠目とおめで確認したくらいか。


 だから誰も、ぼくの話を信じてくれなかった。


 だけど、今夜、実際にグレイさんに助けられて、集落しゅうらくの猫たちはかなり動揺どうようしているらしい。

 

 ミケさんはむずかしい顔をして、何やらなやんでいる。


 しばらくして、ぼくに向かってこう言った。


「う~む……そのトマークトゥス、グレイとやらに、今一度いまいちど会って、話をしてみたいにゃ。シロちゃん、お願い出来るかにゃ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る