第182話 きっといつかどこかで

 お父さんとお母さんに毛づくろいをしてもらった後、ぼくたち3匹は集落しゅうらくへ戻った。


 日向ぼっこをしていたミケさんにって、涙をこらえながら伝える。


「ミャ」


 ミケさん、ぼく、グレイさんとおわかれしてきました。


 グレイさんも、「新しい縄張なわばりを探す」と言って、この土地からはなれていきました。


「それは良かったにゃ。シロちゃんが、もし、『トマークトゥスと一緒に出て行く』と言ったら、どうしようかと思ったにゃ」


 ミケさんは、心の底から安心した顔で、ぼくの頭をでてくれた。


 めてもらえたのはうれしいけど、ぼくの心は深い悲しみにしずんでいた。


 どうしても、グレイさんのことをあきらめきれなかった。

 

 グレイさんの最後の笑顔が、忘れられない。


 あの時の笑顔は、愛しさと悲しみにいろどられていた。


 グレイさんも、もう二度と会えないと分かっている顔だった。


 グレイさんを思い出すと、胸が締め付けられる。


 この悲しみは、時間がてば、いつか忘れられるのだろうか。



 

 翌日、集落しゅうらくの猫たちが、ぼくのところへ集まってきた。


「シロちゃん、あのトマークトゥスを追い払ったんだってニャア?」


「シロちゃんは、やっぱりスゴいニャ~」


 集落しゅうらくの猫たちは、トマークトゥスがいなくなって良かったと喜んでいる。


 猫なら、天敵てんてきがいなくなったことをよろこぶのは、当たり前。


 分かっているんだけど、ぼくはよろこべない。


 大好きな友達と、もう二度と会えないんだから、悲しいに決まっている。


 だけど、いつまでも悲しい顔ばかりしていたんじゃ、みんなに心配を掛けてしまう。


 みんなの前では、精いっぱい笑顔を作った。




 グレイさんを思い出して、さびしくなって落ち込むたびに、お父さんとお母さんが抱き締めて、なぐさめてくれた。


 グレイさんと仲良くなってくれたお父さんとお母さんだけは、ぼくの悲しみを分かってくれた。


「シロちゃんは、そんなにグレイさんのことが大好きだったんだニャー……」


「シロちゃん、あったかくなったら、また3匹で旅へ行きましょうニャ。旅をしていれば、きっといつかどこかでグレイさんと会えるニャ」


「ミャ!」


 そうか、その手があった!


 グレイさんが、集落しゅうらくの近くにいるのはダメだけど、ぼくがグレイさんに会いに行くことは出来るんだ。


 グレイさんがどこへ行ったかは、『走査そうさ』に聞けば、教えてくれる。


 会おうと思えば、また会える。


「もう二度と会えない」なんて、考えなくて良かったんだ。

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