第181話 最後のプレゼント

 ぼくとグレイさんはいつまでも、わかれをしんで泣き続けた。


 グレイさんに抱き締められていると、あったかくて気持ちが良い。


 このぬくもりが、こいしい。


 もう二度と会えないと分かっているからこそ、はなれがたい。


 集落しゅうらくの猫たちとくらべたら、グレイさんと一緒に過ごした時間はとても短い。


 だけど、ぼくにとってグレイさんは、集落しゅうらくの猫たちと同じくらい大切なんだ。


 しばらくすると、泣きんだグレイさんが、ぼくの顔をペロペロめて、なぐさめてくれた。


『シロちゃん、とてもはなれがたいが、そろそろおわかれしようか。あまり遅くなると、集落しゅうらくの猫たちが心配するぞ』


「うん……分かっているミャ。でも、おわかれしたら、もう会えないミャ?」


『そうだな。もともとオレは、新しいつがい縄張なわばりとれを作る為に、旅をしていたんだ。シロちゃんとおわかれしたら、ここをはなれるつもりだ』


「分かったミャ……」


 グレイさんの返事を聞いて、とても落ち込んだ。


 頭では理解りかいしていたけど、グレイさんから言われるとショックは大きい。


 ぼくは、自分の首から下げていた石のナイフをはずして、グレイさんの首にける。


「グレイさん、これあげるミャ。お肉を切る時に、使ってミャ」


『ありがとう。シロちゃんからの最後のプレゼント、愛のあかしとして大切にするよ』


「さようなら、グレイさん。ぼく、グレイさんのこと、ずっと忘れないミャ」


『ああ、オレもずっと忘れない。会えなくても、シロちゃんのことを死ぬまで愛し続ける。さようならだ、オレのシロちゃん……愛している』


 グレイさんはやわらかく微笑ほほえんだ後、ぼくにを向けて走り去っていった。


 ぼくは、遠ざかっていくグレイさんの姿が見えなくなるまで、その場から動けなかった。


 まだほんのりと、グレイさんのぬくもりが残っている。


 でも、冷たい風が吹けば、そのぬくもりはあっけなく消えていった。


 やがて、グレイさんの姿は見えなくなった。


 少し離れたところで、ぼくとグレイさんのわかれを見守っていたお父さんとお母さんが、ぼくをやさしく抱き寄せる。


「シロちゃん、ちゃんとおわかれは出来たかニャー?」


「グレイさんは、良いトマークトゥスだったニャ。私達も、グレイさんとお別れするのは、とってもさびしかったニャ」


「さぁ、毛づくろいして、グレイさんのにおいを消してから、集落しゅうらくへ帰るニャー」


 そう言って、ふたりはぼくの毛づくろいをし始める。


 お父さんとお母さんの気遣きづかいは、とてもうれしい。


 だけど今は、グレイさんのにおいがなくなってしまうことが、悲しくて悲しくて仕方がなかった。

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