第179話 相談

「ミャ?」


 どちらを選ぶか、少し考えさせてもらえませんか?


 グレイさんとも、相談します。


「分かったにゃ。待っているから、ゆっくり考えてにゃ」


 ミケさんはあきれた顔でそう言って、ぼくからはなれていった。


 ぼくの体にうつった、グレイさんのにおいを消すことは、むずかしいことじゃない。


 しっかり毛づくろいをして、日向ひなたぼっこすれば、お日様ひさま殺菌効果さっきんこうかで、においは消える。


 でもたぶん、ミケさんが言いたいことはにおいだけじゃない。


天敵てんてきと、仲良くしちゃダメだ」と、言いたいんだ。


 集落しゅうらくの猫たちは、産まれた頃からずっと一緒にらしてきた仲間であり、家族同然かぞくどうぜん


 グレイさんは、最近出来たばかりのお友達。


 普通に考えたら、集落しゅうらくの猫たちを選ぶべきだ。


 イチモツの集落しゅうらくは、ぼくの大好きな故郷こきょう


 旅をしている間も、集落しゅうらくのことばかり考えていた。


 自分で「旅に出たい」って言ったくせに、いざ、旅に出たら「集落しゅうらくへ帰りたい」ってずっと思っていた。

 

 旅の間、集落しゅうらくに帰りたくて帰りたくて、仕方がなかった。


 グレイさんを選んだら、もう二度と、集落しゅうらくへ戻って来られなくなってしまう。


 イチモツの集落しゅうらくから、はなれることなんて出来ない。


 だけど、グレイさんはどうなるの?


 れから追い出されて、ぼくも友達をやめちゃったら、グレイさんはまたひとりぼっちになってしまう。


 ぼくが「友達をやめたい」って言えば、グレイさんはやさしいから、きっと受け入れてくれると思う。


 多少は、ごねられるかもしれないけど。


 でも、ぼくも集落しゅうらくはなれたくないし……。


 同じ考えが、頭の中でグルグル回っている。


 ぼくひとりでなやんでいても、何も決められない。


 グレイさんに会いに行くつもりだったし、グレイさんにも相談してみよう。




「グレイさん!」


『おおっ、シロちゃん! 来てくれたかっ! シロちゃんが来てくれるのを、ずっと待っていたぞっ!』

 

 グレイさんはぼくを見ると、めちゃくちゃうれしそうに笑って、しっぽもブンブン振る。


 ぼくを抱き締めて、顔をペロペロめてくれる。


 こうやって、全身で「大好きっ!」って態度たいどを取られると、ぼくもうれしい。


 おたがい大好きなのに、なんでお別れしなくちゃいけないの?


「グレイさん、大事なお話しがあるんだけど、聞いてくれるかミャ?」


『もちろん、シロちゃんのお話しなら、なんでも聞くぞ』


「グレイさんは、れから追い出された時、悲しかったミャ?」


『そりゃ、とても悲しかったさ。れは、仲間であり、家族だからな』


「実はぼくも、集落しゅうらくから追い出されそうなんだミャ」


何故なぜだっ? シロちゃんはこんなにも可愛くて、とっても良い子じゃないかっ! なのに、どうして、追い出されなくちゃいけないんだっ?』


 グレイさんは、自分のことのように怒ってくれた。


 やっぱり、「友達をやめる」なんて言えない。

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