第178話 どちらも大切

 グレイさんとすっかり仲良くなってから、だいぶった。


 日数にっすうで数えたら、1ヶ月くらいになるだろうか。


 いつものように、ぼくとお父さんとお母さんと3匹で、集落しゅうらくを出ようとしたら、長老のミケさんに呼び止められた。


「シロちゃん、サバトラさん、シロブチさん、ちょっとお話しがあるにゃ」

 

 ミケさんにしてはめずらしく、少しけわしい顔をしている。


「ミャ?」


 どうしました? ミケさん。


「もう、トマークトゥスと会うのは、止めるにゃ」


「ミャ?」


 え? なんで、グレイさんと会っちゃダメなんですか?


「前にも話したはずにゃ。トマークトゥスとワシらは、うものとわれるもの。本当なら、仲良くなれるはずがないにゃ」


 でも、グレイさんはぼくのお友達です。


 どうして、トマークトゥスと仲良くしちゃ、ダメなんですか?


「シロちゃんたちにトマークトゥスのにおいが付いていると、集落しゅうらくの猫たちもイヤがっているにゃ」


 なるほど、においか。


 自分の臭いをにおいでみると、確かにグレイさんのにおいがする。


 グレイさんに抱きめられて、められることが多いから、においがうつっちゃったんだ。


 動物は、だいたい獣臭けものくさい。


 トマークトゥスも、洗っていない野良犬のらいぬみたいなにおいがする。


 猫だけが特別で、こまめに毛づくろいをして日向ひなたぼっこするから、お日様ひさまの良いにおいがする。


 ぼくも、毎日の毛づくろいをかしていないんだけどね。


 そういえば最近、集落しゅうらくの猫たちと全然お話しをしていない気がする。


 お父さんとお母さん以外の猫と、話した記憶きおくがない。


 以前は、みんな、やさしく声をけてくれていたのに。

 

 ぼくはただ、グレイさんと仲良くしたいだけなのに。


「シロちゃん、トマークトゥスと仲良くするのをやめるか、トマークトゥスと一緒にこの集落しゅうらくを出て行くか、どちらか選ぶにゃ」


 ミケさんは冷たく、そう言いはなった。


 そんな悲しい選択肢せんたくし、ぼくには選べないよ。


 ぼくは、集落しゅうらくの猫たちもグレイさんも、どちらも大切なのに。


 どうして……どちらかしか、選べないんだ。


 なんで、今のままじゃ、ダメなんだ。


 お父さんとお母さんは、ぼくの後ろで、ぼくの答えをじっと待っていた。

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