第176話 天敵の臭い

『シロちゃん、コイツは集落しゅうらくの猫たちへのお土産みやげにしてくれ』


 グレイさんは笑顔で、仕留しとめたオルニメガロニクス(足長あしながフクロウ)を、ぼくの前にし出してきた。


「いいのミャ?」


『ああ。シロちゃんのお父さんとお母さんには、いつも美味おいしいお肉を食べさせてもらっているからな。お礼だから、遠慮えんりょなく受け取ってしい』


「そういうことなら、ありがたくいただくミャ」


 ぼくはお父さんとお母さんに、「グレイさんから、もらったよ」と伝えた。


 ふたりは、オルニメガロニクスを受け取ると、グレイさんに向かってにっこりと笑ってお礼を言う。


「グレイさん、ありがとうございますニャ」


「オルニメガロニクスは、初めて食べるから、どんな味がするか楽しみニャー」


『猫たちがよろこんで食べてくれれば、オレもうれしいよ』


 お互い、言葉は通じなくても、思いは伝わっているらしい。


 ここのところ、毎日ずっと一緒にいるから、お父さんとお母さんも、グレイさんと仲良くなってくれて、ぼくもうれしい。


 最近は、グレイさんにって仲良くお昼寝をしたり、グレイさんの毛づくろいをしていたりする。


 集落しゅうらくの猫たちも、グレイさんと仲良くなれたらいいのにな。





 グレイさんと別れ、ぼくたち3匹の猫は、イチモツの集落しゅうらくへ戻った。

 

「みんな~! 今日はめずしいお肉を狩ってきたニャーッ!」


 お父さんの大きな呼び声を聞いて、集落しゅうらくの猫たちが一斉いっせいに集まって来る。


 しかし、みんな、少し手前で立ち止まって、フンフンとにおいをいでいる。


 まもなく、なんとも言えない変な顔になった。


 猫がにおいをいだ時にする、『フレーメン反応』


 たまにしか見られないから、見られた時はちょっととくした気持ちになる。


 どうしたのかと思ったら、猫たちは「きらいなにおいがするニャ」と、言っている。


 きらいなにおい?


 あ、そうか。


 野生動物は本能的ほんのうてきに、天敵てんてきにおいをぎ分けることが出来る。


 天敵てんてきにおいをぐと、恐怖やストレスを感じるらしい。


 それは、野生動物が生き残る為に、必要不可欠ひつようふかけつな能力なんだ。


 トマークトゥスも猛禽類フクロウも、猫の天敵てんてき。 

 

きらいなにおい」と感じるのは、当たり前なんだ。


 せっかく、グレイさんがくれたのに、誰も食べない。


 グレイさんは、大好きな猫たちによろこんでしかっただけなのに。


 こんなこと、グレイさんに言えないよ……。


 ぼくはとても悲しくなって、涙を流しながら、ひとりでオルニメガロニクスを食べ始めた。


 泣きながら食べるぼくを見て、お父さんとお母さんも一緒に食べてくれた。


 初めて食べたオルニメガロニクスの味は、涙のせいでよく分からなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る