第175話 愛するもの

 ある日、森の中、ぼくとお父さんとお母さんとグレイさんの4匹で、のんびりとお散歩していた。


 突然、モノスゴいいきおいで、何かが走って来る足音が聞こえてきた。


「みんな、逃げるニャーッ!」


 けわしい顔をしたお父さんが叫んだので、ぼくたちはうなづき合い、逃げ出した。


 グレイさんは、ぼくの首根くびねっこをくわえて走る。


『シロちゃんは、オレが守るっ!』


「グレイさん、ありがとうミャ!」


 森の中には、猫の天敵てんてきがいっぱいいる。


 ヘビ、クマ、キツネ、タヌキ、サル、アライグマ、イタチ、コヨーテ、オオカミ、カラス、猛禽類タカやフクロウなど。


 ぼくみたいな小さな仔猫こねこは、特にねらわれやすい。


 ぼくをくわえたグレイさんを先頭せんとうに、お父さんとお母さんが後に続く。


 しばらく走って、大きな岩壁いわかべ辿たどくと、グレイさんは岩陰いわかげに身をひそめた。


 お父さんとお母さんも、グレイさんの後ろに隠れる。


 グレイさんは、ぼくを下ろしてお母さんにあずけ、にっこりと優しく笑う。


『シロちゃん、お父さんとお母さんと一緒に隠れているんだ。ヤツは、オレがなんとかする』


「グレイさん、大丈夫ミャ?」


『ああ、オレに任せろ』

 

 グレイさんは、ぼくを落ち着かせるように顔をひと舐めした後、岩陰いわかげで待つ。


 まもなく、足音がせまって来た。


 タイミングを合わせて、グレイさんが低いうなり声を上げながら、飛び出した。


「ギャアアアアアアアアアッ!」という、動物の鳴き声が聞こえて、ドスンバタンと激しくあらそう音が聞こえてくる。


「隠れていろ」と言われたけど、グレイさんが心配で、そっと顔をのぞかせる。


 グレイさんと戦っていたのは、大きな鳥だった。


 フクロウみたいな見た目なのに、足がやたら長い。


 すると、お父さんがぼくを後ろから抱きかかえて、教えてくれる。


「あれは、オルニメガロニクスニャー。鳥だけど、狩れない怖い鳥ニャー」


 様子をうかがっていれば、やがてグレイさんがするどつめで引っき、きばみ、オルニメガロニクスを地面に叩きせた。


 あれ? グレイさん、狩り出来ないんじゃなかったの?


 オルニメガロニクスが大人しくなったところで、岩陰いわかげから出て、グレイさんにる。


「グレイさん!」


『シロちゃん! 隠れていろと言ったじゃないかっ!』


「ごめんなさいミャ。グレイさんが心配だったのミャ」


 オルニメガロニクスは、まだ生きているけど、グレイさんの前足で押さえつけられて動けなくなっている。


 それを見て、ぼくはグレイさんに笑い掛ける。


「グレイさんは、強いミャ!」


『これでもオレは、トマークトゥスだからな。愛するものを守る為なら、強くもなるさ』


 そう言って、グレイさんは得意げに笑った。



 ―――――――――――――――――――


【Ornimegalonyx《オルニメガロニクス》とは?】


 今から8000年くらい前に生息せいそくしていたと言われている、最大級一番大きいのフクロウの祖先そせん


 体が重くて、飛ぶのが苦手(一応、飛べる)。


 フクロウの見た目なのに、足だけがやたら長い。


 ダチョウのように豪速ごうそくで走って獲物えものを追い、猛禽類もうきんるい特有とくゆうするどつめ仕留しとめる。


 体長約1m、体重約9kg 

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