第173話 分かり合えない

 ヘタに期待きたいだけさせて、グレイさんをガッカリさせたくない。


 だからぼくは、グレイさんに正直に打ち明けることにした。


「悪いけど、グレイさんは、集落しゅうらくに来ちゃダメミャ」 


『オレが、トマークトゥスだからか?』


「そうミャ」


『そうか……そうだよな。すまなかった。さっきの話は、どうか忘れてくれ』


 グレイさんの顔から笑みが消え、頭と耳としっぽを力なくれる。


 落ち込んだ顔で、悲しそうな口調くちょうで続ける。


『オレも、分かっていたんだ……初めて猫とお話しが出来て、シロちゃんとお友達になれたから、つい、浮かれて調子に乗ってしまった……』


期待きたいこたえられなくて、ごめんなさいミャ……」


 ぼくが深々ふかぶかと頭を下げると、グレイさんはやわらかく微笑ほほえむ。


 グレイさんは、ぼくを抱き寄せて、ペロペロと顔をめる。


『いや、良いんだ。オレは、シロちゃんがいてくれれば充分じゅうぶんだから』


「ぼくも、トマークトゥスのお友達は、グレイさんだけミャ」


『シロちゃん、オレとお友達になってくれて、ありがとう』


「こちらこそ、ありがとうミャ」


『オレはここにいるから、またいつでも会いに来てくれ。いつまでも、待っているから』


「うん、また来るミャ」


 ぼくとグレイさんは笑い合い、また来る約束をして、その場で別れた。


 グレイさんはさびしそうな顔で、立ち去るぼくたちをずっと見つめていた。




 イチモツの集落しゅうらくへ戻ってくると、お父さんとお母さんはホッとした顔で、ぼくの毛づくろいを始める。


「あ~……怖かったニャー……」


「シロちゃん、毛づくろいしてあげるニャ」


 ふたりは、ぼくの体にトマークトゥスの臭いが付いているのが、気になって仕方がないらしい。


 猫は、人間の数万倍以上の嗅覚きゅうかくを持つと言われている。


 自分の子供から、天敵てんてきの臭いがしたら、ストレスに違いない。


 ぼくは毛づくろいをしてもらいながら、お父さんとお母さんに相談する。


「ミャ……?」


 グレイさんが、「集落しゅうらくへ来たい」って言っていたんだけど、ダメだよね……?


「いくら、可愛いシロちゃんのお願いでも、それはダメニャー」


「私達が良くても、集落しゅうらくのみんながムリニャ」


 うん、まぁ、そうだよね。


 分かってて聞いたんだ、ごめんなさい。


 確認の為、長老のミケさんにも、グレイさんの話をしてみたんだけど。


 きびしい顔で、きっぱりとことわられてしまった。


 本来ほんらいうものとわれるものは、分かり合えない。


 うものとわれるものが、言葉が通じないのは、しゃべ必要ひつようがないからだ。


 トマークトゥスなのに猫を食べない、愛猫家あいびょうかのグレイさんだけが例外れいがいなんだ。

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