第172話 いぬのきもち、ねこのきもち

 グレイさんのぼくに対する愛が重いことは、お父さんとお母さんに伝えられなかった。


 そもそも、種類が違う動物は、つがい(夫婦)にはなれない。


 犬と猫が、つがいになれないのと同じ。


 ん? いや、待てよ?


 グレイさんは愛猫家あいびょうかだから、単純に「猫が好き」ってことだよね。


 ぼくだって、今も昔も猫が大好きだ。


 それに、グレイさんにとってぼくは、初めて出来た友達。


 初めての友達だから、距離感きょりかんがちょっとおかしいだけなんだ。


 てっきり、ぼくとつがいになりたいってことかと思っちゃったよ。




 ぼくの説得せっとくを聞いたお父さんとお母さんは、深々とため息を吐いた。


「分かったニャー。シロちゃんがそんなに言うなら、グレイさんとお友達になっても良いニャー」


「ただし、シロちゃんひとりで、集落しゅうらくから出るのは危ないからダメニャ」


「私達と一緒に会うなら、良いニャー」


「ミャ?」


 本当? ありがとう、お父さん、お母さんっ!


 両親同伴りょうしんどうはんだけど、これからもグレイさんと会えることになった。


 グレイさんにもそのことを伝えると、大喜おおよろこびで、ちぎれんばかりにブンブンとしっぽを振り出す。


『本当かっ? これからもずっと、シロちゃんと一緒にいられるんだなっ?』


「ぼくも、これからもグレイさんとお友達でいられてうれしいミャ」


『だったら、シロちゃんの集落しゅうらくへ行きたいっ!』


「えっ? イチモツの集落しゅうらくに来るのミャッ?」


『ダメなのかっ?』


「それは、ムリだと思うミャ」


集落しゅうらくの中に入りたいなんて、贅沢ぜいたくは言わない! 集落しゅうらくの近くに、いさせてもらえるだけで良いんだっ! そうすれば、シロちゃんといつでも会えるし、オレも可愛い猫たちをずっとながめていられるじゃないかっ!』


「う~ん……困ったミャ~……」


さわれなくてもいいから、可愛い猫をずっとながめていたい」という気持ちは、良く分かる。


 でも、グレイさんが集落しゅうらくに近付くだけで、猫たちはおびえて、ねむれなくなっちゃうんだよね。


 両方の気持ちが分かるからこそ、グレイさんののぞみをかなえることはむずかしいって、ぼくには分かってしまう。


 ぼくはやっぱり猫だから、グレイさんよりも、集落しゅうらくの猫たちの方を大事にしたい。


 一応、お父さんやお母さんや長老ちょうろうのミケさんに、話だけはしてみようかな。


 条件付きなら、なんとかなるかもしれない。


 ダメだったら、残念ざんねんだけど、グレイさんにはあきらめてもらうしかない。

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