第171話 グレイさんの重い想い

「シロちゃん」


「ミャ?」


 声を掛けられて振り向くと、お父さんとお母さんがさっきよりも近いところにいた。


 3メートルくらい距離はあるけど、大きな進歩だ。


 だけど、まだかなりおびえているみたいで、毛を逆立さかだてて、「やんのかステップ」をしている。


「シロちゃんが、そのトマークトゥスとお友達だってことは分かったニャー」


「でも、トマークトゥスは怖いニャ……」


「ミャ」


 お父さん、お母さん、グレイさんは他のトマークトゥスとは違うんだ。


 グレイさんはとっても優しいから、絶対に猫を食べないよ。


 だから、グレイさんと会うのを許して欲しいんだ。



 ぼくが一生懸命説明していると、ようやく落ち着いたらしいグレイさんが、お父さんとお母さんを見て、うれしそうにしっぽを振っている。


『シロちゃんのお父さんとお母さんも、オレとお友達になってくれるのか?』


「お父さんとお母さんと、お友達になるのは難しいかもしれないミャ。だけど、ぼくとグレイさんが仲良くすることは、許してもらうミャ」


『そうか! だったら、オレからもシロちゃんのお父さんとお母さんに、お願いしようっ!』


「グレイさんの言葉は、お父さんとお母さんには分からないミャ。ぼくが代わりに通訳つうやくするミャ」


『だったら、お父さんとお母さんに、オレの気持ちを伝えてくれ』


「分かったミャ」


『オレは、シロちゃんが好きだ! いや、心から愛しているっ! 猫の中で、一番愛している! オレには、シロちゃんが必要なんだっ! オレはもう、シロちゃんがいないとさびしくて死んでしまう! お父さん、お母さん、絶対に大切にするから、シロちゃんをオレにくれっ!』


「ミャッ?」 


 いやいやいやいやいや、待って待って待って待ってっ!


 それもう、お友達じゃない!


 完全に、両親に結婚の許しをもらいに来た婚約者こんやくしゃのセリフだよっ!


 グレイさんは、ぼくとつがい(夫婦)になりたいのっ?


 ぼく、グレイさんとお友達になりたいだけで、それ以上の関係は求めてないんだけどっ!


 そんなこと言われたって、こんなこと、お父さんとお母さんに伝えられないよ……。


 しを語るオタクみたいに早口で言われたから、ほとんど覚えられなかったし。


「えっと……グレイさんの気持ちは分かったミャ……」


 めちゃくちゃ悩んだすえに、お父さんとお母さんには、「グレイさんは、ぼくと仲良くなりたいんだって」とだけ伝えておいた。

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