第170話 特別な友達

 お父さんとお母さんは、すっかりおびえ切ってしまい、全然近付いて来てくれない。


 ぼくだって、グレイさんが愛猫家あいびょうかじゃなかったら、友達になれなかった。


 普通のトマークトゥスは、近付いたら間違いなくわれるし。


 グレイさんだけが、特別なんだよね。


 理解りかいしてくれなくても良い。

 

 ただ、ぼくとグレイさんが友達だってことを、お父さんとお母さんに知って欲しい。


「あそこにいるのが、ぼくのお父さんとお母さんなんだけど……ふたりとも怖がっちゃってミャ」


『いや、大丈夫だ。猫におびえられるのは、いつものことだかられている』


「グレイさんに紹介したかったのに……ごめんなさいミャ」


あやまらないでくれ、シロちゃん。オレは、可愛い猫を遠くからながめられるだけでいいんだ』


 そう言って、グレイさんは悲しそうに笑った。


 グレイさんは、愛猫家あいびょうかなのに、猫に近付くことも出来ない。


 せめて、ぼくだけでもたくさん仲良くなりたい。


 ぼくは、出来るだけ明るく笑い掛ける。


「あっ、そうミャ! グレイさんに、お土産を持ってきたミャッ!」


『オレは、シロちゃんが会いに来てくれるだけでもうれしいのに。シロちゃんがくれるものなら、なんでもよろこんで受け取るよ』


 ぼくは、背負せおっていた骨とつのを、グレイさんに渡す。


「はい、シンテトケラスの骨とつのミャ。お肉もたっぷり付いているところを、選んできたミャ」


『おおっ、ありがとう! これは美味おいしそうな骨だっ! オレは、骨をかじるのが大好きなんだっ!』


 グレイさんは大喜おおよろこびで、骨をガジガジとみ始めた。


 グレイさんがよろんでくれて、ぼくもうれしい。


「毎日、そうやって骨をガジガジしていたら、きっと歯も良くなるミャ」


『なに? シロちゃんは、オレの歯も心配してくれていたのか?』


「もちろんミャ。グレイさんにこの骨とつのをあげたかったから、お父さんとお母さんに手伝ってもらって、狩ってきたのミャ」


『シロちゃん……っ!』


 ぼくがにっこりと笑うと、グレイさんは驚いた顔で骨を落とし、大粒おおつぶの涙を流し始めた。


 急に泣き出したので、ぼくはギョッとする。


「ど、どうしたミャッ? ガジガジして、歯が痛くなったミャッ?」


『ありがとう、ありがとう……シロちゃんが友達になってくれただけでも、オレは充分じゅうぶんすぎるくらい幸せだったのに。心配までしてくれて、本当にうれしくて仕方がないんだ……』


 涙の意味を知ったぼくは、グレイさんが泣き止むまで、涙をペロペロめ続けた。




――――――――――――――――――――

【トマークトゥスとリビアヤマネコの体格差体の大きさは?】


<トマークトゥス(成獣おとな)>


 全長約100~160cm、体重約25~50kg



<リビアヤマネコ(成獣おとな)>


 全長約45~80cm、体重約3~8kg



<シロ(生後3ヶ月の仔猫こねこ)>


 全長約30cm、体重1kg前後

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