第169話 ぼくたちの愛情表現

 お父さんとお母さんが、「どうしても行く」と言うので、3匹でグレイさんに会いに行くことになった。


 じゃあ、道案内みちあんないお願い、『走査そうさ』!


走査開始そうさかいし


対象たいしょう:食肉目イヌ科イヌ属トマークトゥス』


個体名なまえ:グレイ』


位置情報いちじょうほう直進ちょくしん600m、右折うせつ90m、直進ちょくしん200m』


「ミャ!」


 お父さん、お母さん、これからグレイさんがいるところへ行くから、ついて来て!


「わ、分かったニャー……」


「トマークトゥスは怖いけど、シロちゃんをひとりで行かせるのは、もっと怖いからニャ……」


 ふたりとも、グレイさんと会うのが怖いらしい。


 ぼくだって、グレイさん以外のトマークトゥスは怖い。


 でも、グレイさんは怖くない。


 お父さんとお母さんにも、グレイさんは怖くないって知って欲しい。


 ぼくは、グレイさんへのお土産の骨とつの背負せおってけ出した。


 


目的地周辺もくてきちしゅうへん到着とうちゃく案内終了あんないしゅうりょう


走査そうさ』の案内通りに走ると、無事ぶじ、グレイさんがいるところへ辿たどけた。


 いつも案内ありがとう、『走査そうさ


「グレイさん!」


 目を閉じてせていたグレイさんに、声をける。


 途端とたんに、グレイさんの両耳りょうみみがぴょこんと立ち、しっぽをブンブンり出す。


『シロちゃん! 待っていたぞっ! 思ったよりも早く会いに来てくれて、とってもうれしいよっ!』


「ぼくも、グレイさんに会いたかったミャ!」


『そうか! シロちゃんも、そんなにオレと会いたくて仕方なかったのか! だったら、ずっとオレの側にいてくれっ!』


 グレイさんはうれしそうに笑い、ぼくを両前足りょうまえあしで抱きせて、顔をペロペロとめ始めた。


 犬科の動物が顔をめるのは、愛情表現あいじょうひょうげん


 猫が相手の毛づくろいをするのも、愛情表現あいじょうひょうげん


 ぼくたちは違う動物だけど、愛情表現あいじょうひょうげんは同じなんだ。


 おたがいにめ合いながら、ぼくはグレイさんに話し掛ける。


「そうミャ。グレイさんに、会わせたい猫がいるミャ」


『なに? シロちゃんのお友達を紹介してくれるのか? それは、うれしいな!』


「お友達じゃないミャ、ぼくのお父さんとお母さんミャ」


 そう言いながら振り返ると、ふたりの姿はなかった。


 あれ? 逃げた?


 お~いっ、お父さ~ん! お母さ~んっ! どこ行ったの~?


 いや、良く見れば、ふたりとも木のかげかくれている。


 こちらを見ながら、ガクガクブルブルふるえている。


「ほ、本当に、トマークトゥスニャー……怖いニャー……」


「し、シロちゃんが、トマークトゥスに味見あじみされているニャ……」


 ふたりとも、完全にビビりまくっている。


 やっぱり、トマークトゥスとぼくたちが仲良くなるのは、難しいのかもしれない。

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