第166話 獣の臭い

 イチモツの集落しゅうらくへ、戻ってきた。


 ぼくとしては、バレないようにこっそりと、集落へ入ったつもりだったんだけど、バレバレだったらしい。


 過保護かほご心配性しんぱいしょうのお父さんとお母さんに、すぐ見つかってしまった。


「シロちゃん、どこに行ってたのニャー!」


「シロちゃんがいなくなって、とってもとっても心配したニャ」


「ミャ……」


 ごめんなさい、ちょっと気になることがあって……。


 言い訳しながら近付いて行くと、お父さんとお母さんがビクッとして、立ち止まった。


 今まで、見たこともない反応。


 何か、おかしなことでもあったのかな?


 ふたりは、ぼくに近付くと、フンフンと鼻息荒はないきあらく、においをぎ始める。


 あれ? ひょっとして、ぼく、くさい?


 そういえば、グレイさんにめ回されたっけ。


 あの後、自分で毛づくろいもしていない。


 ってことは……。


「シロちゃんの体から、知らないけものにおいがするニャッ!」


「この臭いは、もしかして……。まさか、シロちゃん、あのトマークトゥスにおそわれたニャーッ?」


「トマークトゥスッ? シロちゃん、大丈夫だったニャッ? どこか、ケガはないニャッ?」


 お父さんとお母さんは、不安と恐怖がり混じった表情で、問い詰めてきた。


 においで、あっさりバレてしまった。


 こうなったら、かくし通せない。


 ぼくは、正直に話すことにした。


「ミャ」


 今日、集落しゅうらくの周りをウロウロしていた、トマークトゥスがいなくなったでしょ?


 だから、気になって、探しに行ったんだよ。


 そしたら、そのトマークトゥスは、おなかがいて死にそうになっていたから、助けたんだ。


 グレイさんっていう名前なんだけど、お話ししてみたら、とっても良いヤツだったよ。


 ぼく、グレイさんとお友達になったんだ。



 ぼくの話を聞いた集落しゅうらくの猫たちは、みんな恐怖の表情でふるえ上がっている。


「シロちゃん、トマークトゥスに会いに行くなんて、そんな危ないことしちゃダメニャー!」


「シロちゃんが、トマークトゥスに食べられなくて良かったニャ!」


「いくらシロちゃんでも、トマークトゥスと友達になったなんて、信じられないニャ~……」


 う~む……やっぱり、誰も信じてくれないか。


 仕方がない、話を変えてみるか。


「ミャ?」


 お父さんとお母さん、一緒に狩りへ行かない?

 

「もちろん、一緒に行くニャー。シロちゃんひとりで、行かせられないニャー」


「シロちゃん、おなかがいたかニャ? じゃあ、美味しいお肉を狩りに行くニャ」


 ふたりをさそうと、さっそく、狩りに行ってくれることになった。


 とりあえず、これで良し。


 偶蹄目ウシやシカを狩って、骨とつのを手に入れなくちゃ。

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