第165話 言い訳

「グレイさん、あ~んしてミャ」


『あ~……』


 グレイさんの虫歯の状態を確認する為、口を大きく開けてもらった。


 見れば、歯全体が茶色くなっていて、ところどころ歯がけていた。


 歯茎はぐきも、赤くれている。


 これは、痛そうだ。


 早く、なんとかしないと。


 確か、万能薬ばんのうやくのヨモギが、歯痛はいたいたはず。


 ヨモギなら、簡単に手に入る。


 あとは、歯磨はみが効果こうかがある、偶蹄目ウシやシカの骨やつのを手に入れないと。


 ウシやシカを狩るには、お父さんとお母さんをたよらないといけないから、やっぱり一度、集落しゅうらくへ戻る必要がある。


 しかし、グレイさんを集落しゅうらくれて行くことは出来ない。


 グレイさんとは、ここで一旦いったん、お別れしなきゃ。




「グレイさん、また来るミャ!」


『ああ、またいつでも会いに来てくれ! オレはシロちゃんが来てくれるのを、いつまでも待っているぞっ!』


 ぼくが別れをげると、グレイさんは名残なごしそうな目で、ぼくをじっと見つめた。


 グレイさんの話によれば、ぼくは初めての友達だそうだ。


 トマークトゥスのれは、血のつながりがあることが多く、仲間意識なかまいしきが強い。


 同じれにいるもの同士、強いきずなはあっても、友達と呼べるものはいなかったらしい。


「仲間」と「友達」は違う。


 しかも、グレイさんは愛猫家あいびょうか


 大好きな猫と話せるとあって、ぼくに対する愛が重いんだ。


 ぼくも猫に生まれ変わって、猫と話せるようになった時は、めちゃくちゃうれしかったもん。


 何度かり返ってみると、グレイさんはいつまでもぼくを見つめていた。


 れから追い出されて、ひとりぼっちでさびしいってのもあるんだろうな。


 


 ここから集落しゅうらくまでの距離きょりは、そう遠くない。


 だけど、ずいぶん長い時間、グレイさんと話し込んでしまった。


 集落しゅうらくを飛び出してから、かなりの時間がっている。


 いくら自由気じゆうきままな猫でも、ぼくがいなくなったことに気付いているだろう。


 きっと今頃いまごろ、お父さんもお父さんも、集落しゅうらくのみんなも、ぼくを心配して探している。


「虫歯のトマークトゥスを探しに行った」なんて、言えるはずがない。


 集落しゅうらくを出た理由りゆうを、考えなくては……。


 ・集落しゅうらくにはえていない薬草を、りに行った。


 ・ひとりで、狩りに行った。


 それっぽい理由りゆうとしては、このへんかな。


 どんな上手い言いわけが出来たところで、しかられるのだけはけられないだろうけど……。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る