第164話 お説教

「グレイさん、ぼく、一度、集落しゅうらくへ戻らなくちゃいけないミャ」


 ぼくがそう言うと、グレイさんはあきらかに悲しそうな顔をして、必死にうったえてくる。


何故なぜだ? せっかく友達になれたのに、もう帰っちゃうのかっ? さびしいから、帰らないでくれ! ずっと、オレの側にいてくれっ!』


「でも……ぼく、誰にも何も言わずに、ひとりで集落しゅうらくを飛び出して来ちゃったミャ……」


 ぼくが小さな声でボソボソと答えると、グレイさんは今度は怒り出した。


『なんだとっ? シロちゃんみたいなちっちゃくて可愛い仔猫が、ひとりで外へ出たら、危ないじゃないかっ!』


 グレイさんの低い怒鳴どなり声が怖くて、ぼくはビクッと体をこわばらせた後、しょんぼりと耳をれる。


 しかられたことで、反省はんせいの気持ちがこみ上げてきて、涙がポロポロとこぼれ落ちる。


 ぼくみたいな弱い猫が、ひとりで集落しゅうらくを出たら危ないってことは、十分じゅうぶんかっている。


「ごめんなさいミャ。きっと今頃いまごろ集落しゅうらくのみんなも、お父さんもお母さんも、とっても心配していると思うミャ……」


『当たり前だ! なんで、こんなことをしたんだっ!』


「でも、正直に、『トマークトゥスを助けに行く』って言ったら、みんなに止められていたはずミャ……」


『あ……』


「だから、みんなにだまって、こっそりと集落しゅうらくを飛び出して来るしかなかったミャ……」


『オレの為か。そうか……そうだよな。助けてくれたのに、怒鳴どなって、悪かった』


 ぼくが集落しゅうらくを飛び出した理由を聞いたグレイさんは、申し訳なさそうな顔であやまってくれた。


 泣いているぼくをなぐさめるように、ぼくの顔をペロペロとめながら続ける。


『泣かないでくれ。シロちゃんが泣いていると、オレまで悲しくなる。いや、オレが泣かせたんだったんだな……本当にすまない。オレはもう大丈夫だから、集落しゅうらくへ帰ってくれ』


「グレイさんは、ぼくのことが心配だからしかってくれたんでしょ? 悪いことをしたんだから、しかられて当たり前ミャ……」


 ぼくもお返しに、グレイさんの顔をペロペロとめた。


「それにぼくはまだ、グレイさんを助けられていないミャ。虫歯はなおせなくても、これ以上悪くなるのをめることは出来るミャ」 


『虫歯?』


 グレイさんは、不思議そうに首をかしげている。


 きっと、「虫歯」なんて言葉は、初めて聞く言葉だと思う。


 病名びょうめいなんて、誰かが付けた名前に過ぎない。


 治せるかどうかが、何よりも大切なんだ。


「とにかく、グレイさんはぼくが助けるから、任せて欲しいミャ!」

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