第161話 一問一答

 トマークトゥスのグレイさんは、お肉を食べて、ちょっとだけ元気を取り戻したみたい。


 だけど、立ち上がるほどの体力は回復していないらしく、ちからなくその場にせをしている。


 両前足りょうまえあしばして、あごも地面にくっ付けている。


 ぼくも、グレイさんの顔のすぐ横で、香箱座こうばこずわりをしている。


 グレイさんはやさしい目でぼくを見つめて、けてくる。


『シロちゃんはなんで、オレを助けてくれたんだ?』


「ぼくは、お医者さんだから、目の前に助けられる命があったら、助けないワケにはいかないミャ」

  

『オレは、お前らをらうトマークトゥスだぞ? 怖くないのか?』


「ぼくも他の猫たちと同じように、トマークトゥスは怖いミャ。だけど、助けようと思ったミャ」


?』


「グレイさんは、ぼくたちの集落しゅうらくおそわなかったからミャ。どうして、集落しゅうらくおそわなかったミャ?」


『実は、このところずっと、歯が痛くて、狩りが出来なくてな』


「やっぱり……」


『それに、オレは弱い。あんなにたくさん猫がいる場所に飛び込んだら、かえちにう(やり返される)よ』


「グレイさんは、弱いのミャ?」


『ああ、オレは弱い。だから、れから追い出されたんだ』


 そう言って、グレイさんはしょんぼりと、耳としっぽをらした。


 トマークトゥスは、大変なんだなぁ。


 犬科いぬかの動物は、めちゃくちゃきびしい階級社会かいきゅうしゃかいらしい。


 強いものがリーダーとして上に立ち、弱いものは強いものにしたがうしかない。


 一方、猫の社会は、わりと自由なんだよね。


 れでいた方が良い時はれを作るし、ひとりが良いと思えばひとりで行動する。


 基本的に、産まれて死ぬまで同じ縄張なわばりで生きる。 


 同じ縄張なわばりでらしていても、みんなそれぞれ自分の好きなことをしている。


 眠かったら寝るし、食べたかったら食べるし、遊びたかったら遊ぶ。


 上下関係じょうげかんけいもないし、弱いことを理由りゆうに追い出されることもない。


 たまに、ケンカくらいはするけどね。


「この辺りにいるのって、グレイさんだけミャ? れは、近くにいないのミャ?」


『そうだ。オレの夫婦と、新しい縄張なわばりとれを作る為に、ひとりでここまで来た』


 トマークトゥスのれは、この近くにいないと分かって、ひと安心。


「じゃあ、なんで、グレイさんはずっと、集落しゅうらくの周りをウロウロしてたのミャ?」


 すると、グレイさんはちょっと気まずそうに、目をらした。


『それは――』

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