第160話 命の恩猫

 さて、パラミス(30~60cmのネズミ)の盛り合わせが出来たけど。


 一番の問題は、どうやってトマークトゥスに、肉を食べさせるかだ。


 眠っている相手に、食べさせることは難しい。


 口を開けさせようにも、仔猫こねこの力では、とても無理だ。


 ぼくとコイツじゃ、体の大きさが違いすぎる。

   

 起こして、自分で食べてもらうしかない。 


 肉を鼻先はなさきまで持って行ったら、匂いで起きてくれないかな?


 ためしに、パラミスの肉を、トマークトゥスの顔の側に置いてみる。



「ミャ~ッ!」


 お願い、起きて~!


 食べないと、死んじゃうよ~っ!



 なんとかして起こそうと、トマークトゥスの顔を肉球にくきゅうでプニプニして、何度も声をけ続けた。


 しばらくすると、トマークトゥスの鼻がヒクヒクと動き、ゆっくりと目を開けた。


 まんまるい金色の目は、とっても綺麗きれいだった。


 目を開けた直後、驚いたように「ウォンッ!」と一声ひとこえ鳴いた。


 起きた時に、目の前に猫がいたら、誰だってビックリするよね。


 トマークトゥスに、猫語が通じるか分からないけれど、構わず話し掛ける。


「ミャ?」


 君、おなかが空いて、死にそうなんでしょ?


 だから、君の為に、美味おいしいお肉をいっぱい狩ってきたんだよ。


 これ食べて、元気になってね。 



 トマークトゥスは、足元に置いてあるパラミスの肉を見て、よだれをらしてしっぽをブンブン振り出す。


 まもなく、ガマン出来なくなったのか、ガツガツと食べ始めた。


 少し離れたところから、トマークトゥスが食べる様子を見守る。


 ひとくちサイズに小さく切っておいたから、食べられたみたい。


 これでしばらくは、おなかが空いて死んじゃう心配はなくなったはず。


 よし、やることはやった。


 あとは、自力でなんとかしてね。


 これからは、夫婦れの仲間に、食べさせてもらうんだよ。 


 そうとなれば、トマークトゥスが食べ終わる前に、さっさと逃げよう。


 ぼくが背を向けると、トマークトゥスが気付いたらしい。


 こちらに向かって、「クゥ~ン……」と、さびしそうに鳴いた。


 それと同時に、『走査そうさ』がトマークトゥスの言葉を翻訳ほんやくしてくれた。


『待ってくれ』


「ミャ?」


仔猫こねこちゃんが、オレにこれをくれたのか?』


「そうミャ。おなかがいて、死にそうだったミャ? だから、君の為に、頑張がんばっていっぱい狩ったミャ。歯がなくても食べられるように、小さく切っておいたミャ」


走査そうさ』に、翻訳ほんやくしてもらって答えた。


 トマークトゥスはうれしそうに笑って、しっぽをブンブン振る。


仔猫こねこちゃんが、トマークトゥスのオレにそこまで……ありがとう。仔猫ちゃんは、オレの言葉が分かるのか?』 

 

「ぼくは、『走査そうさ』っていう特別な力を、猫の神様からもらったミャ。だから、君の言葉も分かるし、君の病気だって分かるミャ」


『へぇ。こんなに小さな仔猫こねこちゃんなのに、スゴいんだな』


 そう言って、トマークトゥスは、ぼくをペロペロとめる。 


 どうやら、ぼくをおそう気はないらしい。


「ぼくの名前は、シロ。君の名前は?」


『オレの名前は、グレイだ。よろしくな、シロちゃん』


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