第156話 襲ってこない理由

 トマークトゥスが目撃もくげきされてから、数日。


 今のところ、集落しゅうらくの猫がおそわれたという話は聞かない。


 毎日、集落しゅうらくの猫の数を確認しているけど、1匹も減っていない。


 偵察部隊ていさつぶたいによれば、トマークトゥスは今も、集落しゅうらくの周りをウロついているそうだ。


 ぼくたちをおそうことなく、ただじっとこちらを見つめているらしい。


 あのトマークトゥスはなんで、おそってこないのかな?


 この辺りを、自分の縄張なわばりにしようとしているんじゃないのか?


 アイツは、何を考えているのだろう?


 ひょっとしてアイツは、れから追い出されちゃった「はぐれオオカミ」なのかな?


 オオカミのれは、上下関係がハッキリしていて、強いきずなで結ばれているらしい。


 その一方で、れにはきびしいルールがあるとか、なんとかかんとか。


 ルールを守れないオオカミは、れから追い出されちゃうんだって。


 もしかすると、あのトマークトゥスは「はぐれオオカミ」なのかもしれない。


「はぐれオオカミは弱い」という、残念な話もある。


 あのトマークトゥスは実は弱いから、集落しゅうらくおそいたくてもおそえないのかもしれない。

  

 だったら、早くあきらめて、さっさとどこかへ行ってくれないかな?


 アイツがいるだけで、集落しゅうらくの猫たちは、おびえ続ける日々を送っている。 

 

 恐怖で睡眠すいみんれなくて、体調をくずす猫も出てきた。


 猫にとって睡眠すいみんは、何よりも大切。


 充分じゅうぶん睡眠すいみんれないと、病気になってしまう。


 猫も、睡眠不足すいみんぶそくだと、目の下にクマが出来るんだよ。


 どうにかして、あのトマークトゥスを追い払う方法はないだろうか。


 ああ、アイツと話が出来たら良いのに……。 




 そんなことを考えながら、集落しゅうらくの外へ目を向けた時。


走査そうさ』が発動はつどうして、いつものように、頭の中に文字が浮かび上がる。


対象たいしょう:食肉目イヌ科イヌ属トマークトゥス』


概要がいようれから追い出された個体こたい


症状しょうじょう齲蝕むしば、および、歯冠破折はがおれている


処置しょち歯垢しこう齲蝕むしば部分を除去後けずって充填剤つめものめて修復なおす抜歯はをぬく歯磨はみがきを習慣化毎日しましょう』  

 

 そっか……アイツ、歯が痛くて、狩りが出来なかったんだ。


 すぐ目の前に、獲物えものがいるのに、食べたくても食べられない。


 きっと、何日も食べてなくて、おなかがペコペコのはずだ。


 あのトマークトゥスは、近いうちにえて死ぬだろう。


 そう思ったら、ちょっと可哀想かわいそうになった。


 かと言って、アイツを助けることは出来ない。


 アイツは狩るもの、ぼくたちは狩られるもの。


 ぼくたちの間には、えられない種族しゅぞくかべがある。

 

 ――――――――――――――


【野生動物も虫歯になるの?】


 野生動物は普通、砂糖が入った甘いお菓子を食べないから、虫歯にならない。


 だけど、狩りで口の中をケガしたり、歯が折れたりした場合は、傷からきんが入って、虫歯になることがあるよ。


 野生動物が虫歯になると、ごはんが食べられなくなって、死んじゃうんだ。

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