第2部 新しい友達

第154話 一匹狼

「大変ニャアァアアアァァアアアァァァァ~ッ!」


 狩りに行っていたサビネコのサビさんが、大声をり上げて、あわてふためきながら、イチモツの集落しゅうらくへ帰って来た。


 猫団子ねこだんごになっている集落しゅうらくの猫たちは、「にゃんだにゃんだ?」と、不思議そうな顔をしている。

 

 ぼくは、猫団子ねこだんごからい出して、サビさんに近付く。


 その場に寝転がって、ゼーハーと全身ぜんしんで息をしているサビさんにう。


「ミャ?」


 サビさん、どうしたんですか?


「イチモツの集落しゅうらく近くに、トマークトゥスがいたんだニャアッ!」


「にゃ、にゃんだってーっ!」


 集落しゅうらくの猫たちはみんな、飛び上がって驚いた。


 みんな、その名を聞いただけで、戦々恐々ガクブルしている。


 トマークトゥスはオオカミみたいな動物で、ぼくたち猫の天敵てんてき


 半年前、立ち寄った集落しゅうらくには、トマークトゥスのれに集落しゅうらくおそわれて、別の場所へ避難ひなんした猫たちがいた。


 ぼくも旅の途中で、トマークトゥスのれに追いけ回された。


 そのせいで、お父さんとお母さんとはぐれてしまった。 


 トマークトゥスに傷付けられて、くなった猫もいた。


 死体の手触てざわりは、猫なのに猫じゃないみたいだった。


 あの感触かんしょくを思い出すだけで、恐怖で身震みぶるいする。


 そんな恐ろしいトマークトゥスが、イチモツの集落しゅうらくの近くにいるだってっ?


「ミャ?」


 サビさん、トマークトゥスのれがいたんですか?


「いや、1匹だけニャア。集落しゅうらくの方をじっと見て、ウロウロ歩き回っていたニャア」



 オオカミは、3~11匹のれを作ると言われている。


 オスのオオカミは成獣おとなになるとれを出て、別の場所へ縄張なわばりを作り、新しいつがい(夫婦)を見つけ、新しいれを作る。


 れを出たばかりで、つがいがいないひとりぼっちのオオカミを、「一匹狼いっぴきおおかみ」と呼ぶらしい。

 

 もしかしたら、新しい縄張なわばりを探してやって来た一匹狼いっぴきおおかみなのかもしれない。


 おなかをかせた一匹狼いっぴきおおかみが、ぼくたちを食べようとしているのかもしれない。  


 オオカミは、真っ先に弱い獲物えものねらう。


 特に、幼体こども、お年寄としより、病気やケガで弱っているものが、ねらわれやすい。  


 危機感ききかんおぼえたらしいお母さんが、ぼくをギュッと抱きめる。 


「シロちゃん、危ないから、集落しゅうらくから出ちゃダメニャッ!」


「……ミャ」


 ぼくも、トマークトゥスは怖い。


 ここ最近は、茶トラ先生と一緒に、集落しゅうらくの周りで薬草探しをしていたけど。 


 一匹狼いっぴきおおかみがウロウロしている間は、薬草探しをお休みしよう。



 ――――――――――――――――――――――――――


Tomarctusトマークトゥスとは?】


 今から2300万年~1600万年前に生息せいそくしていたといわれている、オオカミの祖先そせん


 体長約150cm、体高約90cm、体重約50kg


――――――――――――――――――――――――――


 ※2月22日は猫の日ということで、連載を再開します。

 第2部からは、投稿時間を変更して、夕方頃にしようと思っています。

(お昼休みに読むには、ちょっときびしい残酷ざんこく描写びょうしゃがある為)


 何とぞ、ご理解りかいのほど、よろしくお願い申し上げます。

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