第134話 次期主力艦上攻撃機『惑星』

【前書き】

 前話にて次回はアリューシャン列島の防衛と述べましたが、連続性を持たせた方が良いと判断し、新型の艦上攻撃機『惑星』に変更いたしました。また、今更ですが地の文が大量なので、苦手な方はブラウザバックを推奨します。


【本編】


 今度の機体は艦戦よりも重いため「ドシン!」と着艦した。もちろん、爆弾や魚雷は抱えていない。今度の機体も精鋭航空兵が操縦している。まさにお手本のような着艦を見せた。これを間近で観覧する水兵は感嘆の声を上げざるを得ない。


「愛知の艦攻兼艦爆の『惑星』は便宜的に艦攻に振り分けられます」


「艦爆の急降下爆撃と艦攻の水平爆撃と雷撃を一挙に担う。機種を統合する思想は昔から存在した。機種を統合すれば生産から配備を経て訓練まで一本化できる。空母の搭載機数を圧迫しない。理想の艦上攻撃機に掲げられた」


 今度の機体は艦上攻撃機の『暴風』だ。日本海軍の艦上爆撃機と艦上攻撃機を兼ねる。暴風は艦爆と艦攻を統合するが偵察機の仕事は『天山』に譲り渡した。よって、三座から二座に搭乗員は減っている。


 艦上爆撃機と艦上攻撃機を統合する利点は多方面の効率化だった。そもそも生産する機体が一本化される。日本の限られた資源を集中できる。そして、惑星の登場により空母の限られた搭載機数を効果的に運用した。艦戦と艦攻だけでよいと整備も楽になる。なお、惑星は艦上攻撃機か艦上爆撃機か新しい機種か困った。海軍は無用な混乱を生じさせたくない。惑星は便宜的に艦上攻撃機に定める。


「理想は高かった。愛知航空機と中島航空機、空技廠が一致団結して3年を要しました」


「愛知の機体に中島の発動機、空技廠の各種装置が詰め込まれている」


「あの特徴的な逆ガル翼で見分けることは簡単ですね」


 惑星の開発は困難を極めることが予想された。一式艦爆の愛知航空機と一式艦攻の中島航空機、空技廠が共同開発を行う。挙国一致のスローガンを都合よく解釈していると批判されがちだ。しかし、対米戦に勝つためになりふり構っていられない。1940年時点から一式艦爆と一式艦攻の統合計画が持ち上がった。約3年の開発期間で実現するが、約3年を長いと捉えるか、短いと捉えるかは分かれる。なんせ、惑星は艦爆と艦攻を統合するに止まらない。高速性、高機動性、重武装、防弾の全てが要求された。


 速度性能は空気抵抗を減らすことが手っ取り早い。一式艦爆と一式艦攻で採用した胴体内部の爆弾倉を続投した。機体の大型化に合わせて爆弾倉も大型化する。内部に1t爆弾1発か1000kg級か800kg級航空魚雷1発を吊り下げた。もちろん、250kg爆弾や500kg爆弾、800kg爆弾も吊り下げられる。主翼下に吊架装置を付けて250kg爆弾2発や100kg爆弾と60kg爆弾4発を吊り下げた。


 爆弾倉の都合と高速性と高機動性を一緒くたに中翼配置の逆ガル翼を採る。普通の中翼配置では主脚が長くなった。着艦時に折れる危険を携えるため、主翼をW字に曲げる逆ガル翼を採用し、主脚を短くして折れる危険を排除する。さらに、空技廠のセミ・ファウラー式フラップ、エルロン・フラップを加えた。これらにより短距離離陸性能と運動性向上を得る。ただし、機体本体重量と搭乗員、爆弾か魚雷の重量が重なった。改翔鶴型と改雲龍型、小規模改修を受けた既存空母は、油圧式射出機のおかげで発艦できる。


 固定武装は主翼20mm機銃2門と12.7mm旋回機銃1門を装備した。艦爆と艦攻は攻撃後に余裕がある場合は機銃掃射を行う。対人は7.7mmや12.7mmで足りるが、一定の装甲を纏った軽装甲目標には貫徹できず、20mmの高貫徹力と高威力を持ち出している。自機の防弾は暴風同様に難燃ゴムと自動消火装置の防弾仕様燃料タンクに防弾ガラスを重ねた。


 発動機はハ45の誉を採用している。これは艦戦の暴風と共通化して整備の負担を減じた。空母の中に多種多様な発動機が存在すると整備は面倒である。同じ部品や消耗品を使え、マニュアルも同じであり、整備員の指導まで統一された。ただし、惑星のプロペラは2枚を2重の二重反転プロペラは見送られ、堅実な4枚のプロペラのために暴風並みの速度性能は得られない。


「航空魚雷は1t級のE魚雷に対応し、爆弾も1t級に対応しています。これならば米海軍の新鋭空母を片っ端から撃沈できます」


「航空雷撃も厳しくなり始めた。米海軍の対空砲火は凄まじいと聞いている」


「第一次攻撃は外堀を埋める。これに専念した方が良いかもしれません。無理に航空雷撃は行わない。急降下爆撃と水平爆撃で護衛艦を沈めるべき」


「そこは樋端参謀や三和主席参謀に任せる」


 惑星は1t級のE魚雷に対応した。E魚雷は従来型の1.1倍の炸薬量を秘める。たった1.1倍と侮ることなかれ。その破壊力は酸素魚雷に劣れど一撃で駆逐艦を真っ二つにする。戦艦や空母は数本を要するが高威力のE魚雷の航空雷撃は魅力的だ。


 米海軍の対空砲火は確実に進化して堅牢を誇る。40mmボフォース、20mmエリコン、12.7mmM2ブローニングの米国らしい物量を押し立てた。米海軍の空母機動部隊はウェーク島を巡る海戦に大敗北を喫している。これを契機に対空砲火の重要性を学んで対空火器を大急ぎで増備した。


「補助部隊の零戦に噴進弾を装備させることはどうでしょうか。零戦の機動性ならば対空砲火を掻い潜ることができます。噴進弾は軽量で機動性を損なわない」


「悪くない。爆装するよりはマシだ」


「六番を噴進弾に転用した物は幾らでも用意できます」


 樋端参謀から補助部隊の零戦を攻撃機に変えることが提案された。零戦の爆装は予てから研究されるが、250kg爆弾を吊り下げると速度性と機動性を大きく損ない、米艦隊の対空砲火を掻い潜ることは至難である。250kg爆弾の代替に噴進弾ことロケット弾が呈された。ロケット弾は軽量で取り回しに優れる。劣悪な精度は1機当たり4発の投射量で補う。対艦ロケット弾は60kg爆弾を流用した物が用意されている。大量の在庫を抱える60kg爆弾を消化した。


「惑星が射出機により発艦します」


「改良型油圧式射出機の実力や素晴らしい。火薬式と空気式では艦載機を飛ばすに適さん」


 新造空母は改良型油圧式射出機を標準的に装備する。射出機自体は水上機用の火薬式と空気式が開発され、前者は戦艦と巡洋艦から飛ばし、後者は潜水艦から飛ばした。火薬式は艦載機の機体と搭乗員に与える負荷が大きい。空気式は連続射出が難しい弱点を抱える。空母の射出機は蒸気式か油圧式の択一とならざるを得ない。あいにくと蒸気式は母艦の蒸気を消費した。母艦の航行に支障をきたす致命的な弱点を見せる。


 つまり、現在において最もマシな射出機は油圧式に限られた。


「今から惑星が攻撃後の離脱を想定したRATOの高速飛行を披露します」


「ヴァルター博士とブラウン博士の尽力を賜り、RATOは簡素化と大量生産に適する形に仕上がりました」


「高高度を飛行する敵爆撃機の迎撃にも使える。これからはロケットの時代だ」


 油圧式射出機が惑星を射出して危なげなく発艦する。本来は航空魚雷や徹甲爆弾、陸用爆弾の重量物を抱えた。敵艦隊発見から直ぐに出撃するため、空気は張り詰める。一定高度に到達した惑星は観覧の水兵から見えやすい航路を採る。突如として、主翼下と胴体後部から煙を吹き出した。凄まじい加速を見せつけている。


 惑星は頑丈な設計を盾に主翼と胴体後部に使い捨てのRATOを有した。RATOは離陸補助用ロケットであるが、油圧式射出機の目途が立つと、主力の航空艦隊は別に活用する。RATOは攻撃後の離脱補助、戦闘機を振り切る補助、艦隊の被攻撃時に速やかに退避する補助に用いた。


 当初のRATOはヴァルター式ロケットで繰り返しの利用を考える。ロケット噴射終了と同時に切り離された。RATOはパラシュートによりゆっくりと降下し後で回収される。しかし、地上はともかく海上の回収作業は極めて面倒だった。使い捨ての方が色々と楽である。ヴァルター博士とブラウン博士に簡素化の低コスト化を行わせた。


「暴風も数を減らせば使用可能です。主に緊急度の高い迎撃に用いることになり」


「米国の持たぬ手段で攻める。これが必勝の道か」


 暴風と惑星、油圧式射出機、RATOなどの新型機と新装備が揃いつつある。


続く

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