第128話 陸軍爆撃機の新戦術は反跳爆撃
陸地から陸軍航空隊の新しい攻撃方法に関する訓練を眺めている。
「やはりか。通常の爆弾では重心位置から上手く跳ねない。重心位置を調整した専用爆弾なら反跳爆撃に使用できた。問題は爆撃隊や襲撃隊の練度と反跳爆撃用爆弾の供給が間に合うか」
「そこは猛訓練で解決してみせましょう。どうぞ、供給量を増やすことにご尽力いただいて」
「やるしかないようだ」
陸軍航空隊は主にビルマの対英軍とニューギニアとオーストラリアの対米豪軍と戦闘した。海軍の航空隊の戦闘機や陸攻と連携して連合国軍と戦う。陸軍の航空隊の中でも、爆撃機と襲撃機は陸攻に比べて地味であり、T部隊の華に代表される海軍陸攻隊に負けた。陸軍の爆撃機と襲撃機は連合国軍の地上部隊を痛めつけた。敵地上部隊への攻撃は陸軍の爆撃機と襲撃機が担う。敵艦隊への攻撃は海軍の陸上攻撃機が担う。陸海軍で分担することが好ましかった。
そうは問屋が卸さない。
陸軍は敵艦隊や敵輸送船団を攻撃する新戦術を模索した。海軍の陸攻は水平爆撃に航空雷撃を行える。陸軍の爆撃機は水平爆撃と急降下爆撃(襲撃機のみ)に限られた。水平爆撃と急降下爆撃は爆撃と括ることができ、実質的に攻撃方法は一本に絞られる。
「反跳爆撃はスキップボミングと米軍が一歩早く実行に移した。我々は先手を打たれている。そうである以上は質で上回るしかない。海軍の空母艦隊が反跳爆撃により護衛艦多数に被害を受けた。このことから有力であると証明されている」
「百式重爆は1tまで爆弾を運べます。航空工廠は250kgと500kgを専用爆弾に変える予定ですが」
「それ以上の大型爆弾は二式重爆撃機『高千穂』ですが、あれは海軍さんの連山と同様に生産数が少なく、被弾上等の反跳爆撃には使いたくなかった。よって、百式重爆改と二式襲撃機が専用爆弾をばら撒くだろう」
「面での打撃力を希望すると。わかりました」
陸軍は爆撃機の対艦攻撃に反跳爆撃を導入した。ヨーロッパ戦線の情報を得る中に反跳爆撃という単語を掬い取れる。イタリア空軍が少ない爆撃機を効果的に運用するために反跳爆撃を行った。連合国軍の海上輸送を脅かす。イタリア空軍の反跳爆撃を掬い取ると、日本陸軍も研究を開始して、数々の苦難を乗り越えて結実した。
イギリスのダムバスターズやアメリカ陸軍航空隊も反跳爆撃を採用する。前者はダム破壊に突き抜けて英国の特異さを遺憾なく発揮した。後者は日本陸軍に先駆けて実戦で使用し、B-25とA-20が日本海軍の空母機動部隊に反跳爆撃を敢行すると、護衛艦に大打撃を与えることに成功する。しかし、相応に被害も大きくて反省点は少なくなかった。
日本陸軍は反跳爆撃の研究を進める中で機材は百式重爆撃機改と二式襲撃機に設定した。単発機でも不可能でないが反跳爆撃に不向きと考えられる。原則として、双発以上の爆撃機と襲撃機が行った。最前線の窮乏激しい状況下では軽爆撃機や直接協同偵察機に行わせることはやむを得ない。
「航空工廠は反跳爆撃を行う機体の機銃を増設したい。敵艦に低空飛行で迫るため、対空砲火の脅威は航空雷撃と同等と見積もられ、敵艦の対空火器を減殺することが必要となった」
「完全に同意する。全ての襲撃機にお願いしたいところだ」
「襲撃機の機銃強化の要望は存じております。一先ずは機首下部に外装式機銃(ガンポッド)を取り付けて対応したい。空戦に関する性能は低下するが、対地と対艦の攻撃力は大幅に上がり、反跳爆撃を仕掛ける際に対空砲火を黙らせる」
反跳爆撃は爆弾を水切り遊びの要領で跳ねさせた。目標の喫水線下か船体上部に命中する。水中で爆発した場合は魚雷に準ずる破壊を与えられる。航空雷撃と同程度の破壊力を期待できた。使用機材は通常の爆撃機でよくて高価な魚雷を消費しない。航空雷撃よりもコストパフォーマンスに優れた。
しかし、いざ実験してみると散々な結果が続いている。匙を投げそうになった。反跳爆撃は低空から爆弾を投下し、肝心の爆弾が跳ねずに沈んだり、海面で跳ねる前に自爆したり、跳ねた爆弾に母機が撃墜されたり、等々の失敗が積み上げられた。あまりに失敗が積み重なり、悲痛な事故も起こって、遂には「反跳爆撃に勝機なく」と言われている。
陸軍航空工廠は反跳爆撃の研究に爆弾の問題を指摘した。爆弾の重心位置が反跳爆撃に適合していない。そこで、実弾と同一の形状で重量の模擬爆弾を用意した。反跳爆撃の試験を繰り返す。爆撃機の操縦手や爆撃手の練度は関係なかった。航空工廠が予想した通りと判明する。他にも、陸軍の使用する爆弾の強度、遅延信管の開発、反跳爆撃の詳細な攻撃方法を纏めたマニュアル、等々の課題が浮き上がった。
「7.7mmか12.7mmか20mmか」
「百式重爆は余裕があって、新型はもっと余裕がある。操縦手の技量次第ですが、75mmの野砲か高射砲を改造した上で搭載できた」
「おっと、これは想像を上回る。それなら…護衛戦闘機に噴進弾を提げても」
「夢が広がる。やりようは幾らでもある」
仮に反跳爆撃を確立した場合は、目標次第であるが、猛烈な対空砲火に絡め取られた。第一航空艦隊に対して仕掛けた米陸軍航空隊の反跳爆撃は、B-25とA-20の多くが損傷して撃墜された機体もある。航空雷撃と同様に低高度から侵入して爆弾を投下した。敵艦隊に多数の護衛艦と強力な対空火器をする場合は、堅牢な米爆撃機も無事では済まない。
したがって、敵艦隊の対空砲火を幾らか減殺するべきとされた。陸軍の爆撃機と襲撃機は機銃の増設が簡単に行える。爆弾の投下前に機銃掃射を行って対空火器を制圧した。百式爆撃機改は大掛かりな改造を要する代わりに75mm級の野砲を搭載できる。二式襲撃機は37mmと20mm、12.7mm、7.7mm各種機銃を換装なり増設なりが可能だ。
さらに、胴体下部か主翼下部に外装式機銃ことガンポッドを吊り下げる。ガンポッドは特別な改造を要さずに手っ取り早かった。ドイツ空軍がガンポッドを手広く運用することに注目する。運動性が損なわれて専ら対地攻撃に使用したが、熟練のパイロットが操作すると、大口径機関砲のガンポッドを振り上げて重爆撃機を撃墜した。
「海軍陸攻の航空雷撃と陸軍爆撃機の反跳爆撃の二枚看板は良い響きである。米軍が放棄した島嶼部に進出すると聞いた。敵艦隊や輸送船団が来た時は、外堀も内堀も埋めてやろう」
「大物食らいは望まない。随分と謙虚なことです」
「反跳爆撃は敵艦隊の護衛艦を無力化するに丁度良いんだ。空母や戦艦の大物食らいは陸交代に任せる。これが襲撃機隊の出した結論であり、上の上に無駄な攻撃は削ぐことを提案した」
「その陸攻隊も空技廠が研究中の一撃必殺兵器の試験を行うとかなんとか」
「まさに切磋琢磨だ」
これで日本軍の基地航空隊は陸軍の爆撃機・襲撃機と海軍の陸上攻撃機が揃う。通常の水平爆撃と急降下爆撃を除き、陸軍の爆撃機・襲撃機は反跳爆撃を掲げ、海軍の陸上攻撃機は航空雷撃を掲げた。
もっとも、陸軍の爆撃機隊や襲撃機隊は意外と謙虚である。自分たちの反跳爆撃は敵艦隊の護衛艦を削ぐ外堀と内堀を埋めるに専念した。あくまでも、敵艦隊中心部の空母や戦艦の大物食らいは望まない。それは海軍の陸攻隊の航空雷撃に任せるべきと自制した。
お互いに同一の目標を狙うとゴチャゴチャする。同じ目標を集中的に攻撃して確実に撃沈できると言われよう。そんな虫の良い話があるわけがない。確実性と効率性も分担した方が良好だった。
「反跳爆撃に勝機あり」
続く
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