第120話 ソロモン海戦第二夜戦(1)『西村中将vsリー少将』
ルンガ沖海戦は日本海軍の完勝に終わった。米海軍のキャラハン艦隊は重巡2隻と駆逐2隻が大破している。主に本隊と後衛駆逐隊が大損害を被ったが、前衛駆逐隊は無傷のため、前衛駆逐隊に守られてニューヘブリディーズ諸島へ帰投した。しかし、ニューヘブリディーズ諸島は大空襲を受けて機能を喪失している。ハワイの真珠湾基地で本格な修理が要求された。
「この戦いはガダルカナル島の維持ではない。ガダルカナル島の兵隊を撤退させる戦いだ」
ガダルカナル島強行輸送を一時的に中止した輸送船団まで捕捉された。日本海軍の二水戦はガダルカナル島を通過し、敵輸送船団を発見すると、猛烈な砲撃を浴びせる。護衛の駆逐艦ごと輸送船を撃沈した。輸送船は航空用燃料を満載して零式弾(榴弾)により容易に炎上する。
ルンガ沖夜戦からガダルカナル島の維持は極めて困難に陥った。リー艦隊は昼間の大空襲や夜間のルンガ沖夜戦の報告を受け取る。誰もがガダルカナル島の撤退を予想した。もはや、ソロモン諸島に拘る意味は薄いだろう。
リー少将は日本艦隊を撃退してガダルカナル島の兵隊を守るために殿を務めた。
「日本艦隊らしき艦影あり! 重巡と思われる!」
「まだ撃つな。レーダー射撃で仕留めるんだ」
日本海軍は二水戦の完勝からガダルカナル島の封鎖から艦砲射撃に移行した。ガダルカナル島を艦砲射撃して復旧中のヘンダーソン飛行場と揚陸物資を焼き払う。友軍潜水艦の発見した米艦隊は必ず阻止に来るはずだ。日本海軍の二水戦と米海軍のキャラハン艦隊が立ち去った海に新たな戦いが起こる。
西村艦隊とリー艦隊がルンガ沖の第二夜戦に激突した。
「なんだ!?」
「照明弾! まさか!」
「て、敵機が上空に! 弾着観測機がいます!」
リー少将はレーダー射撃の先駆者とレーダーを組み込んだ射撃を行いたい。西村艦隊も対艦電探を装備している。しかし、ソロモン諸島の地形がレーダーの運用を難しくした。西村艦隊は古典的な弾着観測機を飛ばす。ガダルカナル島のヘンダーソン飛行場は仮復旧した。あいにく、夜間飛行可能な戦闘機は配備されない。
リー艦隊は弾着観測機の水上偵察機を抱える重巡又は軽巡を持たなかった。その陣容は大空襲や輸送船護衛、アウトレンジ雷撃騒ぎ、キャラハン艦隊救援が重なり、派遣と帰投が相次いでいる。最終的にハルゼー中将から命じられた陣容は戦艦『ノースカロライナ』『ワシントン』『サウスダコタ』と駆逐艦6隻だった。駆逐艦6隻は最初から従った仲間でなく、余剰の駆逐艦の中でも燃料の残存量に余裕があり、ソロモン諸島の海戦を経て十分に帰投できる。
つまり、リー艦隊は寄せ集めの言葉が当て嵌まった。
リー少将も一抹の不安を抱える。
しかし、稀な艦隊決戦の機会を得たことの興奮で埋めた。
「対空射撃を!」
「通信の妨害と対空射撃を始めよ。こうも照らされては隠れられん」
「発砲炎! 巡洋艦じゃない!?」
「なにぃ!」
西村艦隊の放った瑞雲水上偵察機が吊光弾を投下した。最上型航巡から瑞雲隊が放たれる。250kg爆弾と60kg爆弾の代わりに吊光弾を抱えた。水上機乗りは夜間飛行が専門であり、闇夜の中に敵艦らしき姿を確認すると、疑う余地なしと言わんばかりだ。
リー艦隊は駆逐艦のみである。弾着観測機の迎撃の手段は対空砲火に限られた。巡洋艦の水偵が健在の場合は迎撃機に発進させられる。リー艦隊の闇夜に紛れて動いてレーダー射撃と16インチSHSで圧倒する予定が挫かれる。まずは敵機の通信の妨害と対空機銃が稼働した。
「敵弾来る!」
「先制攻撃は許したが、そう簡単に当たるものではない」
艦隊はクッキリと照らされている。こちらは照明弾発射の最中だ。必然的に日本艦隊が先手を打つことになる。見張り員が重巡洋艦と識別した艦影に生じた発砲炎は8インチ級でなかった。16インチに匹敵する規模である。見張り員は直ぐに重巡から戦艦に訂正した。
「サウスダコタに遠弾! ワシントンに近弾!」
「ノースカロライナは遥かな遠弾で助かった。よ~し反撃だ!」
5インチ副砲から発射された照明弾は敵戦艦を照らす。お互いに照明弾により照らし合う格好だった。先制攻撃を許して大口径徹甲弾が飛来したが、初弾に直撃を期待したり恐れたりすることもなく、後方に落下する遠弾と手前に落下する近弾を確認する。
「敵戦艦は3隻でコンゴウクラス(金剛型戦艦)だ! 我らが勝っている!」
「レーダー射撃用意急げ!」
「前衛駆逐隊が敵駆逐隊と接敵! 同時に左舷に重巡洋艦複数!」
リー艦隊の状況は決して芳しくなかった。前衛の駆逐隊は突撃する前に敵駆逐隊に絡め取られる。日本海軍の駆逐艦の恐ろしさは、嫌ほど理解させられ、キャラハン艦隊は駆逐艦の前に粉砕された。凶報は続いている。艦隊左方に敵重巡複数を視認した。ガダルカナル島を背にした配置であり、対艦レーダーは島を映すばかりだった。
「全て外れました!」
「まずいな。敵戦艦は弾着観測機から詳細な修正を得られる。こちらはレーダーと見張り員が頼り」
「それに敵戦艦は14インチ砲です。装填は向こうの方が早いかと…」
ノースカロライナ、ワシントン、サウスダコタの16インチSHSは敢無く外れた。いかにレーダー射撃に精通したリー少将の指揮と雖もである。初弾命中は夢のまた夢なのだ。米戦艦は優秀なレーダーや装置を装備するが、この時のレーダーは未熟も未熟と言え、西村艦隊が弾着観測射撃を採用したことは正解と思われる。
リー艦隊がレーダー射撃に拘っていることを嘲笑うが如くだ。16インチ砲と14インチ砲を比べて、威力は前者に軍配が上がれど、装填速度は後者が勝っている。いきなり全砲門を一斉射するようなこともなく、弾着観測機の修正を受け取って、残りの主砲が猛々しく唸った。
「敵戦艦発砲!」
「前衛駆逐隊が後退を求めています!」
「ダメだ! 敵駆逐艦は絶対に通すな!」
金剛型戦艦の14インチ砲を受け止められる装甲と信じる。ノースカロライナ級もサウスダコタ級も脆弱な箇所は存在した。リー少将のレーダー射撃の真価を見せつける前に最後方に位置したサウスダコタが被弾する。
「サウスダコタ被弾!」
「損害を知らせ!」
リー艦隊は前面に警戒の駆逐隊を置いた。後方にノースカロライナ、ワシントン、サウスダコタの順番に並んでいる。サウスダコタを最後に置いたことは練度不足の心配が残されたからだ。サウスダコタをノースカロライナ姉妹で庇う。そのサウスダコタが優先的に狙われた。
サウスダコタは最悪の状況に陥っている。第三砲塔に36cm徹甲弾が直撃して射撃不能となる。さらに、主電源の一時的な喪失という致命傷を負ってしまった。第三砲塔と別に被弾した際に一部の電源が喪失する。直ちに応急修理に入るのだが、練度不足が響き、電源全体を喪失するヒューマンエラーが発生した。主砲全てが射撃不能となり、頼みの綱のレーダーも使用不可となる。
一連の異常事態は敵艦も把握した。
「敵重巡がサウスダコタに接近中!」
「重巡を優先して叩け! 何としてでも、サウスダコタを守るんだ!」
「重巡は無視しても良いのでは? 8インチ砲で主砲弾薬庫は貫けません」
「日本海軍の重巡は魚雷を抱えているんだ! ロングランスの仕込みを忘れたか!」
敵艦はサウスダコタの砲塔が一様に停止したことを知る。詳細な損害は不明でも攻撃能力を奪ったことは確実だろう。残りの戦艦は戦艦に任せた。重巡部隊と見られた航巡は果敢にも突撃を敢行する。サウスダコタを数的有利を活かして滅多打ちにした。
リー少将は苦渋の決断と敵戦艦よりも敵重巡を優先させる。普通は目の前の戦艦を優先した。リー少将は日本海軍の重巡が酸素魚雷を仕込んでいることを知っている。サウスダコタに対する砲撃はお遊びで雷撃が本命だと見抜いた。
「ここは魔の海域か!」
続く
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