第7話 フランス領インドシナ進駐

~前書き~

 本話から割と厳しめな内容が多くなります。苦手な方はブラウザバックを推奨いたします。そして、政治的な主義主張を行うものではありません。現実世界と関係ない、フィクションであることを、ご理解の程よろしくお願いいたします。


~本編~


 1938年に入ると世界史に刻まれる出来事が発生した。それは日本と欧米を完全に引き裂く内容であり、後世に第二次世界大戦(東亜独立戦争)の回帰不可能点とされる。7月に中華民国の汪兆銘氏が対フランス交渉のため仏印へ出かけた。日本を含めた三カ国通商条約など、なんとか東亜の緊張を解こうと試みる。あいにく、交渉は難航して決裂が決定的だった。二日目の交渉を終えて滞在先に戻る移動中に銃撃される。


 汪兆銘氏襲撃事件を受け、中華民国と日本は激怒した。フランスに犯人逮捕などを要求するが、両国の要求は拒絶されている。東亜同盟は汪兆銘氏が襲撃された事件を重く見て武力行使を決意した。フランスへの報復とインドシナの植民地解放を掲げて大軍を派遣する。中華民国軍が国境線より北部を圧迫し、日本軍が南部に上陸船団を送った。ドイツとの緊張でフランス正規軍は本国におり、植民地には現地軍しか配置されていない。北部はあっという間に突破され、南部も強襲上陸の前に瓦解した。また、現地軍が呼びかけに呼応する。南北から挟み撃ちにあって内部から反乱を受け、フランス領インドシナは一週間で機能を失った。


 現地は一週間独立戦争と呼ぶ武力行使は日中の完勝で終わる。あまりにも早すぎたため、イギリスとアメリカの介入は間に合わなかった。即座に現地政府が樹立されて日本軍が進駐する。イギリスとアメリカは猛烈に反発して経済制裁を強める。東亜同盟は盤石のブロック経済を盾としてノーダメージだ。また、唯一の独立国であるタイ王国が日本との協調路線を選択する。タイ王国は平和的な日本軍進駐を受け入れ、欧米の支配より日本主導の解放を望んだ。


 なお、フランス領インドシナは現地の要望を受け入れ、日本主導でベトナム、ラオス、カンボジアの3つに分割される。それぞれ日本軍より権限を全面移譲された。国際社会から承認されないため建前だけの独立国である。


 かくして、東亜同盟はインドシナとタイ王国を吸収し、完全に欧米と対立してしまった。経済制裁は一段と強められてABD包囲網が形成される。石油からゴムまで資源輸出が禁止された。


 もう、戦いを避けることは不可能である。


 日本軍は牙を磨き続ける内の一つが潜水艦だった。


=北海道・日高=


 北海道の日高と聞けば、真っ先に昆布が思い浮かぶ。確かに、昆布漁が行われた。漁業で成り立つ田舎町ではなく、ちょっとした、海軍都市でもあるのは面白いだろう。日本海軍は小規模な軍港を整備して小型艦が出入りした。一年の殆どが沿岸警備のコルベットやフリゲートが占める。遠洋の漁に出る漁船を護衛するため、出漁に合わせて出撃した。漁業者は安心して漁ができ、海軍は新兵の訓練になる。


 沿岸警備の小型艦が使用する港とは別に施設がもうけられた。竹筋コンクリートで頑丈に固められた建物がある。地域住民には砲弾や魚雷が積み上げられた弾薬庫と説明した。危険施設のため頑丈に作っており、爆発しても被害が及ばない、人気の皆無な遠方に置かれた。


「大葉さん。東京からはるばるご苦労様です」


「お久しぶりです。友永先生」


「その呼び方はやめて欲しいのですが」


 日高の弾薬貯蔵庫は半地下式で建設されている。地下空間も倉庫にするのかと思われるが、その実態は巨大な地下基地であり、ずらりと潜水艦が並んでいた。弾薬貯蔵庫の正体は極秘の潜水艦基地である。いわば、Uボート・ブンカーだった。


 日高基地では日夜潜水艦の建造と改修が行われる。内陸の夕張から石炭を鉄路で得られた。室蘭など工業都市で鉄が加工される。さらに、中国から輸送される潤沢な資源を糧に潜水艦を拵えた。日本海軍は潜水艦戦力の拡充に注力する。仮想敵国に対する通商破壊作戦に限らなかった。


 欧米をアッと驚かせる奇手・奇策を講ずる。


 そのためには研究が欠かせなかった。第一次世界大戦後にUボートを鹵獲したが、ドイツから技術者を得るのが手っ取り早い。そこで、ヴェルサイユ体制の回避策を活用した。Uボート研究の場を与える代価に技術を融通させ、優秀な国産潜水艦技師が誕生する。


 日高基地においては友永英夫技師がトップに立った。ドイツ人博士から技術を吸収し、画期的な装備を幾つも生み出している。特に自動懸吊装置は素晴らしく排水ポンプを省略した。潜水艦の天敵である雑音発生を抑制して隠密性が向上する。また、電池使用の節約にもなった。


 彼をリーダーに据えて新型潜水艦の開発に注力する。日本海軍は建造に際して電気溶接のブロック工法を全面採用した。基本の通常型潜水艦は大型のイ号、中型のロ号、小型のハ号の三種に分ける。この他に母艦型や機雷敷設型など様々な特殊潜水艦が生み出された。


「これは壮観な景色です。ここまで特型潜水艦が並んでいるとは…」


「設計には苦心しました。要求が過酷どころの話でないので、私一人ではどうにもならず」


「全ては勝つためですが、流石に酷が過ぎたと自認しています」


「はは、そこまで畏まらなくても大丈夫です。私は若輩の若輩なんです」


 友永潜水艦技師は20代の若手ながら、日本海軍の潜水艦をけん引した。保守的な堅実は頑丈だが、超大国を打倒するには不足している。温故知新をスローガンに新型を雪崩のように開発した。仮に失敗しても貴重なデータを得られたと次回に繋げる。


「潜水機動部隊に用意された砲撃型潜水艦ですか。この秘密工廠なら最後まで秘匿できる。どれくらいで戦列に参加できますか」


「試作の色が濃い特イ10型4隻は習熟を待つのみです。今は潜水母艦と一緒に出払っており、遠洋訓練に精を出しています。正規量産型の特イ15型6隻は来年の4月には揃います」


「流石に超々弩級戦艦の資材を流用すれば10隻もヘッチャラと」


「まぁ、鉄が多いに越したことはありません。襲撃潜水艦の特ロ型8隻は前期型4隻が戦列に加わり、後期型4隻は訓練中ですが、来月には参加できましょう。偵察潜水艦特ハ型は10隻以上が就役して」


 特殊作戦に充当される潜水艦は頭に「特」の文字が追加された。通常型よりも高性能であり、武装も特殊が占めて強力無比である。もちろん、建造方法はブロック工法が死守された。大型化や煩雑化しても建造期間短縮は忘れない。


「襲撃潜水艦のヴァルター機関は改良型の到着を待っています。到着次第に換装しますが、どうでしょうか」


「ヘルムート博士は間接式ヴァルター機関を開発中です。これが間に合うかは保証できません。従来型と異なり熱効率に優れて高速航行の限界が引き上げられました。まぁ、相も変わらず過酸化水素は取り扱いに注意が必要であり、通常型潜水艦は電池を増備する方向です」


「ヴァルター機関は少数精鋭の潜水機動部隊に限定されました。逸品の製造と熟練者で十分でしょう。まさか、極量産型のウツボに積載するわけにもいきません。そうだ、そうだ、ウツボは50隻の製造を完了しました。追加の改良型が50隻建造中らしいと」


 日本海軍の切り札は切り札らしく、他国の潜水艦には無い装備を備える。極秘のベールに包まれ、外見からは全く分からない。とにかく、潜水艦の歴史を変える化け物だ。相応に慎重に次ぐ慎重が求められる。製造も高精度を要求して大量生産は不可能なため、切り札の切り札に絞り込むことにより、円滑な運用を確保した。


「つまり、残るは潜水空母2隻のみ」


「はい、浮き台に偽装して網走で建造中です」


「潜水機動部隊が揃う日まで待ち遠しい。早くお目にかかりたいものですなぁ」


続く

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