第6話 陸軍装備の大刷新【後】

 大砲についてだが、基本的な砲兵を構成する野砲は省略した。


 主に新しい火砲について綴っていく。


 砲兵の基本である野砲は三種類を基本形に設定している。具体的には、シュナイダー式75mm野砲、シュナイダー及びラインメタル式10cm野砲、ラインメタル式15cm野砲の三種類だった。75mm野砲は機動化を絶対として、砲兵トラクターに代表される車両牽引を与えている。10cm野砲も同様に機動化されるが、短砲身の榴弾砲は自走砲改造に繋がった。しかし、長砲身のカノン砲は牽引に限定される。15cm野砲も長大な砲身のカノン砲だが、旧式の榴弾砲は自走砲に転用された。在庫整理と言うと聞こえが悪いため、ここはお古の有効活用と言っておこう。


 では、本題の新進気鋭の火砲に移る。


≪九四式軽迫撃砲/九六式中迫撃砲/九七式重迫撃砲≫


 迫撃砲の性質を帯びる兵器として八九式擲弾筒がある。諸外国で類を見ない兵器だが歩兵一人で運用でき、他国製で同規模の迫撃砲よりも長射程と大威力を両立した。この八九式重擲弾筒の成功により、曲射する迫撃砲の需要が高まっている。


 1932年にフランスのストークブラン社が81mm迫撃砲を売り込んだ。ストークブラン式の近代的な迫撃砲であり、運用には歩兵数名を要するが、障害物越しに大威力の砲弾を撃ち込める。南方地帯では野砲の運用が難しいことを鑑みて導入を決定した。攻撃戦でも防衛戦でも強力な火砲になるだろう。


 数門を購入してから実弾の試験を行うと優秀な成績を収めた。陸軍はライセンス生産権を得て大量生産の態勢に入る。当時は旧式の山砲や歩兵砲が積み上がり、どうにか新装備に置き換えたかった。迫撃砲は一般的な大砲より軽便であることが高く評価される。迫撃砲の配備によって旧式砲は淘汰されるはずだった。旧式砲は別の活用法を見出して生き永らえる。


 なお、ストークブラン式迫撃砲の宿命として精度に難があった。どうしても、砲弾を多量に消費しがちである。節約志向の強い保守思想では拒絶されるが、現代は火力の集中と強引に導入した。数を要すと雖も野砲に比べて安価である。南方地帯でも簡単に運用できるのは絶大な長所なのだ。


「軽くて動きやすい」


「ポンポン撃てるのは面白い。弾着観測は期待しない方が良さそうだが」


「重擲弾筒で撃破できない敵を砕ける」


 実際の兵士からの評判も良好が占める。重擲弾筒の延長線上に位置するため、操作難易度も高くなかった。そして、ストークブラン式81mm迫撃砲は1934年採用の『九四式軽迫撃砲』となる。曲射歩兵砲と名付ける案もあったが、新装備であることを強調し迫撃砲を貫いた。採用当初は「軽」の文字はない。後に大口径化を進めるうちに「中」と「重」を追加した。


 81mmの中途半端な口径より更なる威力を求める声が聞かれる。これから大口径を目指した。ストークブラン式で120mm口径の中迫撃砲を開発するが、大口径化は重量増加で軽便さが失われる。迫撃砲を車両牽引の機動化を与えて解決した。もっとも、ストークブラン式の製造には高い精度を要しない。取り扱いが簡単な点は堅持された。重量は200kgを超えて機動力は高いとは言い難い。所詮は軽迫撃砲の拡大版のため、問題は重い程度で済んだ。こちらは1936年に『九六式中迫撃砲』に採用されている。


 中迫撃砲と同時期に重迫撃砲と150mm口径が開発された。開発時にはライバルとして、30cmや30.5cmの超大口径が存在する。圧倒的な破壊力を以て敵軍を粉砕し、友軍の士気を高める決戦兵器だ。長大口径は重量が過大過ぎる点や運用が難しい点から却下される。また、後に機動力に富んだ36cmと45cmの『ム砲』が開発され、重迫撃砲は150mm一本に絞り込まれた。


 中迫撃砲同様にストークブラン式の拡大を続け、砲身は滑腔砲でライフリングが見られない。砲弾の安定は砲弾自体に翼を与える有翼弾で図られた。砲身重量は軽くなってコストダウンにもなる。現時点において、滑腔砲は迫撃砲と噴進砲で採用された。とはいえ、150mmの大口径では重量もコストもかかる。重量は500kgを超えるため機動戦には使用せず、拠点の防衛や攻城戦に使用した。もちろん、運搬は車両牽引の機動化を加える。最終的には1937年の『九七式重迫撃砲』を為した。


 なお、それぞれの迫撃砲は現地改造で車載化される。特に軽トラックの荷台に乗せられた。車両で迅速に展開すると迫撃砲を連射しては直ちにその場から退避した。野砲の高精度と長射程は無い。迅速な展開と撤収が可能な一撃離脱戦法に特化させた。


 迫撃砲と並び低精度だが安価で大量投入される兵器が噴進砲である。


≪各種噴進砲≫


 ここで名称が無い「各種」になっているのは、噴進砲がロケット砲のため、純正品から現地改造品まで幅が広すぎた。ロケット砲の強みは大砲に比べて構造が簡易かつ安価である。安く簡単に製造できる以上は大量生産と大量投入が当然だった。


 野砲と同じく三種類の基本形を設定している。


 第一に軽噴進砲の80mmが挙げられた。小型軽量のシンプルな物であり、多連装化が広く行われる。威力は大砲と遜色ないものの、いかんせん低い精度が足を引っ張った。これを補うために多連装化を通じて投射量を増している。ピンポイントの点を重視することなく、真逆で面の制圧力を高めた。一応程度に安定翼を装備しているが、焼け石に水が否めない。ロケット砲の多連装発射機は機械化の牽引式だが、トラックの荷台や戦車の車体に搭載する簡易改造も可能だ。


 第二に中噴進砲の10cmが続いている。80mmよりも一回り大きくて重くなった。その分の炸薬量が増して破壊力は2倍に向上する。多連装化は不可能ではないが80mm程に束ねられなかった。反動を抑えるため発射機は37mm速射砲の台を流用する。37mmに拘らないで47mm速射砲や75mm野砲でも代用できた。問題の低精度も高威力で補い、短時間に打ち尽くす戦法で埋めている。


 第三に重噴進砲の15cmである。80mmと10cmから一気に大型化と大重量化して多連装化は可能でも工夫が凝らされた。主に単装でレールの発射機から連続発射している。たっぷりの炸薬で破壊力は重砲に迫るが、重砲を置き換えることはなかった。射程距離と精度で大きく劣る。あくまでも、大砲不足の穴埋めや短時間の奇襲攻撃などに充てられた。


 以上の三種に軽・中・重が付いているが、これは便宜的に付けたに過ぎなかった。なんせ、ロケットが簡便な強みから20cm、36cm、41cm、45cmと種類は数え切れない。口径から察せるが艦砲に合わせていた。海軍で製造された艦砲弾で余剰を頂戴する。弾頭に推進機構を与えれば、あっという間にロケット砲弾の完成だった。補給の観点からも艦砲と共通化するのは好ましい。80mmは海軍の8cm副砲(高角砲ではなくてライセンス生産の方である)だ。10cmは汎用駆逐艦の10砲から頂いている。15cmについては簡易な点より複数種類存在した。最も多いのは15.2cm副砲/主砲のであり、次に14cm副砲/主砲が続き、最新は15.5cmの副砲が充当され始めている。大砲まで厳密は要求されないため、多少口径がバラついても問題なかった。


 そんなロケット砲は曲射が限定される。南方地帯の森林では迫撃砲に座を奪われた。しかし、平地や上陸作戦では絶大な威力を発揮する。兵器は絞れば絞る程に良いとは言えず、適材適所の四字熟語が最も当て嵌まった。迫撃砲は迫撃砲に適した戦場へロケット砲はロケット砲に適した戦場へ送り込まれる。


 野砲の近代化に負けじと新兵器が登場した。


 我らは決して技術力も数も負けていない。


続く

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