第四章 地獄へ
第81話 覚醒ヒナノン
~~作者前書き~~
大変お待たせいたしました。
激動の四章がスタートします!
さぁ、地獄に落ちるぞ
~~~~~~~~~
夏休みが始まった。
それも高校二年生の夏休みが、である。
漫画と同じぐらい――とまではいかないが、ライトノベルを少々嗜んでいる俺としては、少し意識してしまう時期である。主に、恋愛的に。
というのも、青春もののラブコメではこの『高校二年生』という時期がよく見受けられるからだ。意中の女の子と海に行ったり、夏祭りに行ったり、そんなキラキラした青春のストーリーをよく目にする。創作の中の世界は俺とは住む世界が違い過ぎて、当時は『もはやファンタジージャンルなのでは?』なんて思ったりもしていた。
万が一億が一、俺もそんな状況になるかもしれない――なんて幻想めいたことを考えなかったわけではないが、現実の高校二年生は気になっていた可愛い女子に告白され、振って、夏休み突入である。どうしてこうなった。
「どうするか……」
夏休み初日。天気は快晴。時刻は昼の一時。
母親と一緒に朝食をとってから、仕事に行くのを見送り、リビングとトイレの掃除をこなしてから、自室でのんびり。
夏休みを満喫しているかと問われたら、これはイエスなのかノーなのか。
ライトノベル的に言えばノーなのだろうけど、俺的にはイエスでもいいのではないかと思う。
「蓮に連絡を……いや、あいつは由布と遊んでるかな」
連絡がこないということはそういうことなのだろうと、チャットを送る前に判断する。カップルの邪魔はしたくないのだ。せっかく骨折が治ったというのに、馬に蹴られたくはないからな。
となると、俺に選択肢は多くない。黒川さんか、熱海か。遊ぶとしたらその二択ぐらいだ。
告白を断った黒川さんを、その翌日に遊びに誘うなどという馬鹿な真似はできないと即断したのだけど、だからと言って熱海に誘いをかけられるかと言われたら正直微妙。
そもそも、黒川さんにしろ熱海にしろ、気軽に遊びに誘える度胸は俺にはないのだ! 威張れることではないことは自覚しております。
「お?」
スマホ片手にベッドの上でモヤモヤしていると、チャットの通知が届いた。
それも、二件同時に。
『有馬くんなにしてるの~? よかったら一緒に宿題とかしませんか?』
『そっちで一緒に宿題していい?』
どちらも内容は似たようなものだった。一緒に宿題をしようというもの。
――が、しかし。
熱海はいいが、黒川さんは俺に告白して振られ、なおかつ俺が熱海にも好意を抱いていることを知っている。この状況で、三人で遊ぶことが許されるのか否か……。
下手をすれば、熱海と黒川さんの間に変な軋轢を生みそうで怖いんだが。
二つのチャットに既読を付けた状態で、頭を抱えていると、
『あたしヒナノン』
そんなチャットが熱海から届く。お前はみっちゃんだろうが。
『じつはいま』
これは黒川さんから。
『有馬くんの』
これは熱海から。
『隣の家にいるの』
そんな風に、ぽんぽんぽんと、一、二秒おきに交互にチャットが届いた。
ということは――だ。
『おまえたち』『さては』『熱海の家に』『一緒にいるな?』
俺は彼女たちがやったように、別々の送り先にそれぞれチャットを送信した。一人で作業をこなしたから、彼女たちのようにスムーズにはいかなかったが。
すると、次は一緒に同じスタンプが送られてきた。ウサギが『〇』と書かれた看板を掲げているものである。どうやら俺の予想通りらしい。
二人が険悪になったらどうしようだなんて、いらない心配だったのかもしれないな。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
インターホンがなってから玄関扉を薄く開くと、熱海がニヤリと笑みを作って顔を出してきた。
「有馬、びっくりした?」
「そりゃ告白された次の日に遊びに誘われたらな」
本当は黒川さんが熱海と一緒に遊ぼうと言ってきてることにビックリなのだけど、俺が熱海に向けている気持ちに関しては極秘中の極秘事項なので、最もらしい理由で誤魔化しておいた。
「おはよう有馬くん! 好きです!」
そして、熱海の後ろから、黒川さんも顔を出す。また告白されてしまった。いたずらが成功したような
「昨日断ったばかりなんですけど!? ネタでも非常に反応に困るから勘弁してください……」
「あーあーイチャイチャしちゃって~、熱いったらありゃしないわ」
「暑いのは夏だからだろ……ほれ、クーラーの冷気が逃げるから入った入った」
「「はーい」」
二人そろって返事をして、彼女たちは「お邪魔します」としっかり挨拶をしてから靴を脱ぎ、リビングに向かう。まだ数回しか我が家に来ていない黒川さんを引き連れ、熱海はまるで自分の家かのように我が家を闊歩していた。
黒川さんの一件で一時はどうなるかと思ったけど……どうやら俺が想像していたような暗い夏休みにはなりそうにないらしい。別の意味で、大変な夏休みにはなりそうだけども。
なんだか、黒川さんが開き直って覚醒したみたいな――普通挨拶がわりに『好きです』だなんて言わないだろ? 言わないと思う。少なくとも俺はそんな普通知らない。
「黒川さんのアレを聞いて、熱海はいったいどんな風に思っているのやら」
二人には聞こえないよう、小さな声でつぶやく。
初めて芽生えた親友の恋心を温かく見守っているのか。
自分は王子様を見つけられておらず、うまくいっていないから妬ましく思っているのか。
もしくは、俺のことが多少は気になっていて、軽く嫉妬を覚えているとか――。
まぁ、たぶん一番目だろうな。三番は、ただの俺の願望か。
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