第80話 好きになっちゃえば、好きになるんだよ




 黒川さんと一緒に教室に戻り、蓮、由布、熱海の三人と合流。それから俺たち五人はそのまま寄り道をせずに帰ることになった。


 学校は終業式で午前中までだったから、普段ならばこのまま遊びに出かけたりするのだけど、今日に限っては誰も午後の話をせずに――それどころか、明らかに何かがあったであろう俺と黒川さんに関して、三人は何も聞いてこないまま、別れた。


「何も聞かないんだな。黒川さんからは、事前に色々聞いてるんだろ?」


 三人とバス停で別れたあと、二人になってから俺は熱海に声を掛けた。

 俺の質問を受けて、彼女は一瞬ちらっとこちらを見てから、再び前を向く。


「まぁね、色々と聞いてるわ。……それで、付き合うことにしたの?」


「いいや、申し訳ないけど断った――けど、実質保留みたいな感じなのかな……」


 俺がそう答えると、彼女は前に進めていた足を止めて、俺を見上げた。


「あんなに可愛くてあんたと相性が良くて優しい子を振るなんて、クラスの男子に知られたらボコボコのボコよ?」


「分不相応だとは自覚しております」


 容姿でいじめられていた俺が、まさか告白を受けるなんて――それも、中身も外見もハイレベルすぎる女の子に。

 反省の雰囲気を醸し出しながら言うと、彼女はちょっと慌てた様子で、


「そういう意味で言ったんじゃないんだけど……有馬みたいに、しっかりと恋愛に向き合ってない男子も多いし、ほら、『おっぱい大きいから!』なんて理由で好きになる人もいるじゃない? 男子って」


 そんな人いるのだろうか? いや、プールの授業を思い出すと、熱海の意見も一理ありそうだな……。まぁ男子の悲しいさがはいいとして。


「てっきり、あたしは有馬と陽菜乃が付き合うのかなって思ってたわ」


 黒川さんに感情移入をしているのか、熱海は悲しそうな小さい声で言う。ゆっくりと歩き出したので、俺もその横に並ぶように足並みをそろえた。


「ずっと『相性が良い』って言ってたもんな、熱海は。というかやっぱりお前、俺と黒川さんをくっつけようとしてなかったか? 前にも一度聞いたけど、そのときははぐらかされた記憶があるんだが」


「気のせいよ」


「気のせいじゃない気がするなぁ」


 前を向きながらぼんやりと話す俺に、熱海はうなるような顔つきでにらみつけてくる。

 俺はそれを見て見ぬふりをして、誤魔化すための口笛を吹きそうになりながら、考える。


 もしも俺の前に天秤があって、黒川さんと熱海が秤に乗っているのなら、おそらく熱海のほうに比重が偏っているのだろうと。

 熱海は黒川さんとは違うタイプであり、そして俺は熱海のほうを好んでいるのだろうと。

 しかし、まだ天秤の針は振り切れてはいないのだ。ふらふらと、定まっていないのだ。


 なんと優柔不断なことか――しかも相手には、王子様という片思いの人がいるというのに、実際には異性として気になってしまっている。

 もし俺がこの状況を客観的に見ているのならば、『相手に好きな人がいるならあきらめるべきなのでは?』と思ってしまいそうだ。だけど、そんなに簡単じゃない。


「恋愛って、難しいよな」


「有馬が思っているよりも、もっと複雑だと思うわよ。そしてあたしが思っているよりも、たぶんもっと複雑なのよ」


 肩を竦めながら熱海が言う。

 俺にはその横顔が、どこかほっとしているようにも見えた。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 終業式が終わって家に帰宅してから、ひとりで黙々と食事をして、ベッドでゴロゴロとしながら黒川さんからの告白を思い返していた。

 家には誰もいないし、誰とも約束していないし、誰からも連絡がないし、誰にも連絡する気がなかったから。


『有馬優介くんのことが好きです。大好きです!』


 改めてその言葉を思い返してみると、『有馬優介って誰だろう』なんて意味のわからないことを考えだしてしまうぐらい、現実味がない。

 だけどそれはやっぱり現実として起こったことだから、しっかりと答えないといけないんだけど――まぁ断ることは断ったんだが、きっぱり望みを断ち切るような断りかたではなかったからなぁ。


「マジでどうしたらいいんだ……」


 黒川さんは俺のことが好きであり、俺は黒川さんと熱海が気になっているものの、どちらかというと熱海に気持ちが寄っている。そしてその熱海はというと、王子様という片思いの相手がおり、さらには俺と黒川の恋愛を応援している。


 スマートフォンを操作し、写真を表示。以前熱海たちと買い物に行ったときに撮ったプリクラや、動物園の写真などを見返してみる。


「なんだこのハーレム野郎は……?」


 よくいままでクラスで生き残れているな、俺。これでもし黒川さんから告白されて断ったなどということがバレたら、熱海の言った『ボコボコのボコよ』どころでは済まない気がする。もっと『ボキボキ』とか『ぐちょぐちょ』な感じになりそうだ。


「しかしまぁ……」


 二人とも、やっぱり可愛いよなぁ。改めて画像を眺めてみると、そう思う。

 以前蓮にも指摘されたが、見た目の印象で言えば黒川さんのほうが、俺は好みだ――好みだった。


 過去形になってしまったのは、別に黒川さんが変わったとか、俺の好みが変わったとか、熱海が変わったとかそんなわけではない。ただ、そういう外見の好みの段階ではなくなってきていたのだ。


 たしか、あれは由布が言っていたんだっけ。中学二年ぐらいのときに。



 ――好きになっちゃえば、好きになるんだよ。



 なにをわけのわからないことを言っているんだこのアホは、と当時の俺は思っていたけれど、いまならなんとなく意味がわかる気がするな。

 相手の嫌な部分とか、周りから見たら欠点に見えるようなこととか、そういうところも全部ひっくるめて『好き』に、なってしまうんだろう。


 恋愛とはきっと、そういうものなのだろう。




~~~作者あとがき~~~


これにて第三章、閉幕!

黒川さんがついに有馬くんへ告白する章でした!!


次話より第四章スタートです!


【作者からのお願い】

「面白い!」「続きが読みたい!」と思っていただけましたら、

小説のフォロー、★★★星で称える、いいね、コメント等などどうぞよろしくお願いいたします!!




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る