第52話 リア充アリマン



 土曜日は特に遊ぶ約束をすることなく、それぞれ思い思いの時間を過ごし、日曜日は図書館に五人で集まって、黙々と勉強。

 由布は少々アレだが、いちおう我が校は進学校で偏差値も60近くあり、勉強ができる人が集まっている。そういうこともあり、みな集中し始めたら真面目に勉強に取り組んでいた。

 俺は絶賛右手骨折中だが、ペンを持とうと思えば持てるので、試験を受けることに関しては問題ない。ただ、書くのが遅いので、いつもより早く解くことを心がけようと思っている。


 翌日の月曜日からはいよいよ試験前の部活動禁止期間に移行し、学校全体が試験モードに入っていった。俺たちは全員が帰宅部なので特に日常と変化はない。せいぜい、帰宅するときに人が多いか少ないかぐらいの違いだ。


 由布は蓮に強制的に勉強を強いられている状態なので、この期間、彼らを遊びに誘ったり勉強会に誘うことはできない。赤点は回避できているようだからまだいいけど、それでも成績が悪いことは変わりないからなぁ。蓮、頑張ってくれ。


 で、俺と熱海と黒川さんだが、基本的には学校に居残りして三人で勉強だ。

 他にも居残りをしていた生徒がいたから、そいつらとちらほら会話はあったけど、お互いグループが出来上がっていたので、数分話したらそれで終わりといった感じだった。


 女子だけのグループ、男子だけのグループ、男女混合のグループ等々あったのだけど、木曜日に至るまでの四日間で、男子と女子のグループがくっついていたのはなんだか『青春しているなぁ』と思えた。

 最初から熱海や黒川さんと一緒にいる俺がそんなことを言ったら間違いなく嫌味に聞こえるだろうから、絶対に言わないけども。


 そして、金曜日。


 本日は黒川さんが熱海の家に泊まることになっているらしく、就寝ギリギリまでは我が家に滞在するとのことだった。お風呂と夕食を済ませて、俺の家に八時ごろにやってくるとのこと。

 熱海家も有馬家も保護者不在の状態だけど、夜の十時半にはしっかりと母さんたちが帰宅するからセーフ……ということなのだろう。もしかしたらそのあたり、黒川さんは保護者に内緒にしているかもしれないが。


 というわけで、夜八時。


「なんだかいけないことしてるみたいだよね!」


「もう、陽菜乃ったら子供じゃあるまいし」


 我が家に訪れた美少女二名が、リビングのソファに座ってきゃぴきゃぴとはしゃいでいる。二人とも、パジャマだ。

 熱海は中学の体操服だったり、ジャージだったり、ボタンのついたパジャマだったりとその日によってまちまちなのだが、今日はまだ見たことのない部屋着を着ていた。

 水色のトレーナーに、同じ色の短パン。短パンのほうには縁に白いラインが入っている。

 そして黒川さんのほうは、熱海が着ているものの色違いで、彼女はピンク色だった。


 どちらも太ももは丸出しだし、熱海はまだいいが、黒川さんの胸の暴力はすごい。とてつもない。ビッグだ。そして自分の語彙力のなさにもビックリだ。

こんな身も蓋もないことを口にすれば、間違いなく俺の頭は握りつぶされてしまうから絶対に言わないけども。


 少し離れたダイニングテーブルでお茶を飲みながら精神を落ち着けていると、熱海が俺に声を掛けてきた。


「このパジャマ、この前の土曜日に二人で買ってきたのよ」


「えへへ~、色違いだよっ! いいでしょ~」


 黒川さん。その姿で胸を張られると目のやり場に困るので、あまりやらないでほしい。

 ……まったくやらないでほしいとは言わないが。


「いいでしょって言われてもな、俺が同じ服を着るとでも思うのか? どう考えても女子用だろそれ」


「案外似合うかもしれないよっ!」


「ふふっ、着てるところ想像してみたら笑っちゃった」


「想像せんでよろしい」


 ため息交じりに言うと、二人は声をそろえて笑う。

 いくら恋愛がわからないとはいえ、就寝前の美少女と過ごせることは、少し前の俺ならば心臓バクバクになっていただろう。だが、毎日のように我が家にやってくる熱海のせいで慣れてしまっている俺は、せいぜい『ドキ』くらいで済んでいた。


 たぶん、彼女たちと出会ってまもないころにこの光景を見せられていたら、俺は鼻血を垂れ流していたことだろう。そして、ドン引きされていたに違いない。

 人間って、慣れる生き物なんだなぁ。

 あまり見つめすぎないよう、二人から視線をそらしつつ感慨にふけっていると、黒川さんがソファから立ち上がりこちらに歩いてきた。


「ほらほら、一人でそっちにいないで有馬くんもこっちでお話しようよっ!」


 黒川さんはそう言って、腕を後ろに組み俺の顔を覗き込んでくる。

 ……黒川さんは、そのポーズがいかに自身の武器を強調しているのかなんて気づいていないんだろうなぁ。ちらっと彼女の奥にいるもう一人の美少女に視線を向けてみると、熱海は自分の胸をしたからくいっくいっと持ち上げているところだった。そして、俺と目が合う。


「なによっ!? 文句あるっ!?」


「な、ないです」


 そのやり取りの意味をしらない黒川さんは、俺と熱海を交互に見てから「どうしたの?」と首をかしげていた。君は知らないほうが幸せだと思いますよ。

 はたしてこの時間に集まった俺たちに、勉強するという選択肢は残されているのか。



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