練習Ep Prologue編
私にはヒーローがいた。
若くして王位を継承した国王でも、世界に平穏をもたらした勇者でも、魔王なき今魔物の残党を狩る騎士団でもない。
たった十五歳、二人一組で行われる剣技を争う世代限定戦公式大会、ティーンズ部門三年無敗の少年だ。
私は彼のティーンズ部門無敗記録のかかる大会を見に行った。死に物狂いでチケットを獲得して、待ちに待った日だった。
「あの子の実力なら世代がひとつ上がるくらいじゃ敵無しだよね。天才だもん」
「今日も完勝だろ」
「ここまで強いとつまらないよなー」
入場の列に並んでいる途中、聞こえてくる声。
何も分かっていない。ただ強いだけでなく、織り成す技の美しさがなければ頂点に立つことができないことを。
そして、完璧に全てをこなす強靭なメンタルによってそれが完成していることも。
「それではこれより開場致します!」
一歩一歩、この国最大の会場が近付く。この先で待つ天才に私の胸は早くも踊り始めていた。
予選は次点に大幅のスコア差をつけての首位通過。
抽選により決められる本戦の披露順はトリ。全てが彼のために動いている。
それなりの演技を11組見て最終。
興奮は頂点に達する。登場から割れんばかりの歓声で、彼の片手が全観衆を静まらせ、ゴングで始まる剣技。
鍔迫り合い、華麗な回避技、フィールド全体を使ったアクティブな動きのなかに魅せる静の動き。
「⋯⋯⋯⋯」
何も言葉が出なかった。
残されたフィニッシュ。もう天才の勝利は約束されている。
あとは大歓声を受けるだけ、だったのに⋯⋯。
途端鼓膜を撃ち抜くかのような女性の悲鳴が上がった。
一瞬意識をそちらに持っていかれ、皆の視線がそれでもなお会場の中心に向かっているのを見て私もまた向き直す。
「えっ⋯⋯嘘」
そこには組手の胸を貫く剣とそれを握る天才の姿があった。
そこからのことはあまり思い出せない。気が動転して、周囲が会場から去ろうとしているのにその場に座り込んだまま。
大人しく警備員に取り押さえられる天才の背中を見つめていた。
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