練習EP
友坂快斗は今日もどこからともなく降り掛かる厄に肩を落とした。
「ねぇ、聞いてんの?」
放課後、教室のど真ん中で女子に詰め寄られる男子生徒という一見興味を惹かれる光景をまるで日常のように見過ごすなかのこと。
「わかってる、わかってるよ。俺がどうしてお前の尻に顔から突っ込んだかって話だろ?」
面倒臭そうに友坂は彼女を落ち着かせる。
いつものこれ。幼少期からのアクシデント。なにをどうしても起きてしまう不可抗力。
誰にも理解されないのがこの理不尽なところ。
「だから、ちょっと長原と話してて、流れで小突かれたら体勢崩して、その先に大和がいただけのことなんだよ」
「んなわけないでしょ! 別に顔向ける必要なかったじゃん!」
「いや、それはなんか受け身とか怪我しそうなものないかとか考えてたら勝手にそうなってただけで。てか、ぶつかったくらいであーだこーだ言うなよ……」
どうせなかは体操着を着ているくせにと、心の中で付け加えて。
しかしながら、彼の言葉を受けた大和は怒り心頭の様子。握りこぶしは微かに震え始めた。
「あのね、これが初犯ならここまで言わないわよ。偶然の産物なんだもの」
「だろ?」
「だろじゃない! これでもう三回目! 一回目はスカート捲り、二回目は痴漢、今回も含めて全部お尻! 確信犯でしょ!」
曲げようのない事実を並べられた彼は表情を歪めた。ただし、心中を見抜かれたものではなく、逃げ道をつくれない現実に対してだ。
偶然も重なれば必然となる……なんてことはない。
スカート捲りは落ちたカーディガンを拾い上げた勢いで、痴漢と呼ぶものは先日の文化祭にて行われた余興で商品を獲得した喜びにガッツポーズしようとしたら間違えて叩いてしまったもの。
前者は致し方ないとはいえ、後者は意図しなければなかなか起きえないこと。しかも、順番が順番だけに怪しさMAX。
必死に誤解だと弁明することで許しを得て数日の今日。この展開。もはや開き直りの犯人である。
「それでも俺はやってない!」
「やったのは、やったでしょ!」
「はい! すみませんでしたぁぁあああ!!」
渾身の土下座だ。
16歳にして身体に染み付いた滑らかな動き。これまでの人生のなかで同様の事態に発展したとき、毎度のように頭を地につけていたら勝手に身体が覚えていった悲しき経緯。
故意であろうがなかろうが関係ない。
疑われる方が悪いの精神がまかり通ってしまうんだから。
彼に刺さる軽蔑の視線。
冤罪とも言えないこの理不尽な性質はもっとどうにか改善されるべきだ。
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