練習BOX

木種

練習Ep

 平穏な高校生活を望んでいた俺に降りかかる災難。


「私と付き合ってください!」


 肩を震わせ、声を張り、手を差し出す宮田。


 どうしてこうなった……?


 俺と宮田に一体何があったって言うんだ?


「……ダメ、かな?」


 濡れた瞳で上目遣いしないで! 理解出来ていない状況がさらに混乱するから!


「いやさ、ダメとかダメじゃないとかの前に、これ、ふざ──」


 待て待て待て!


 それは言って良い言葉なのか? 本心だったらどうするつもりだ? 取り返しのつかないことになるぞ。


「──けて答えていいことじゃないから、すこし時間が欲しい」


 危ねぇ、持ちこたえたー。


 でも仕方ないだろ。クラスでトップクラスの容姿を持つ才女の宮田と国語が得意なだけの端っこにいる雑グラキャラの俺が万が一にもこの先にある甘い展開になるはずがないんだ。


 夢じゃないことは分かってる。だから、こんなに困ってる。


「……私のこと、好きじゃないなら、そう言って欲しいよ」


「えっ、そ、そういうわけじゃなくて!」


「じゃあ、どうして時間がいるの?」


 一歩踏み込んできた。


 顔と顔が近くてシャンプーの匂いが好きを刺激する。


 俺だって断りたいわけじゃない。ただ理解が及ばないこの状況を脳が整理できなくて心を落ち着かせたいだけなんだ。


「わ、わかった。今、ここで返事をするよ」


 でも、もう無理。匂いが脳を宮田一色に染めていく。


 宮田が俺の返事を待ち遠しそうにしてくれていると考えたら、YES以外の選択肢を与えてくれない。


「俺も……宮田のことが、好きです」


「っ!」


 宮田は頬を紅潮させ、震える腕を俺の背中に回す。


 俺も応えなきゃ。


 ゆっくりと抱きしめた。


 カシャッ


 その時だった。明確にシャッター音が聞こえてきたのは。


「は〜い、そこまで〜!」


「えっ、えっ、えっ?」


 どうして相澤が?


 それに相澤といつも一緒にいる奴らも出てきた。


「お疲れね、由利香」


「由利、香?」


「なに勝手に人の彼女を呼び捨てにしてんだよっ!」


「っ!」


 頬に拳が当たった。


 驚きと困惑で宮田を離していた俺はその勢いのまま床に転ぶ。


 痛い。やっぱり夢じゃない! なんだよ、これ。こういう美人局みたいなの現実に起きんのかよ!


 やばいやばいやばいやばい。


 さっきのでなんか写真撮られたし、絶対せびられる。最悪の学校生活が始まる。


「おいおい、そんな青ざめた顔すんなって。別に誰もお前なんかに興味ねぇからさ。これ、罰ゲームなんだわ」


「ば、罰ゲーム?」


「由利香、自分の口で説明してやれよ」


 相澤に言われた宮田がウェットティッシュて手を拭きながら、冷めた視線を向けてきた。


「私が君に恋情を抱く可能性が本当にあると思ったの? ちょっとは考えればわかると思うけれど」


 ああ、つまりはそういうことなんだ。


 罰ゲームは俺に告白して返事を貰うことで、だから、俺が一旦持ち帰ろうとしたら止めてきて、そりゃおかしいよな……。


「まあ、夢でも見てんじゃないかってちょっと期待しちゃうよな〜。わかるよ、わかる」


 相澤がポンポンと肩を叩いてくる。


「でもさ〜、現実はちゃ〜んと見た方がいいよ」


 グッと顔を近付けて嘲笑を見せつけてくる。


 ただ、恐怖とか悲壮とか、そういうのよりも、相澤から匂う香りが宮田と同じということが俺の脳を破壊していった。

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