第39話 天秤の両皿
「乱獲はやめない。
だが、戦争はしない」
狩人が言うと、2人のペアは、武器となりうるものをすべて投げ捨てて、手をあげて降伏のポーズをとった。
こんな状態の人間に攻撃をしたら、動機がなんであれ、攻撃側が悪人呼ばわりされるに決まっている。
それがこの世界のモラルだ。
2人は「降伏」を盾にアンドレーの攻撃を封じようとした。
2人はこうすれば、アンドレーが立ち去ると思った。
だが……。
アンドレーは、頭のおかしい涅槃の聖者だ。
性欲のことしか頭にない。
アンモラルにスキル発動!
「ロックウォール!」
土属性魔法だ。
ゴゴゴゴゴッ!!
巨大な土の壁が地面から現れた。
四枚の壁がくっつき、大きなピラミッドの形になった。
森の中に、突如巨大ピラミッドが出来上がったのだ。
ピラミッドの中は、豪邸なみに広い。
ピラミッドの前にアンドレーの姿がみえるが、乱獲者たちの姿はなかった。
2人は、ピラミッドの中に閉じ込められていた。
土のピラミッドには隙間が一切なかった。
時間が経てば窒息するのが目に見えていた。
真っ暗闇のピラミッドに閉じ込められた2人は壁を叩きながら叫んだ。
「おい、なんだよこれ! どうなってんだ!」
「おい! どこにも出口がないぞ。
このままじゃ俺たちこの中で死んじまう!」
だが、その声は、土の分厚い壁に阻まれて、外には聞こえなかった。
アンドレーは、ピラミッドを背にして歩きだした。
相手に聞こえないのを承知で、こんなことを言った。
「これで大きなお家に住むという夢が叶ったな。
おめでとう」
アンドレーは、しばらくすると、またべつのペアに声をかけた。
ちょっと貧乏そうな男女のペアであった。
2人は夫婦らしく、子供をいい学校に入れたやりたくて、このビジネスに手を出したようだ。
いい学校へいって、知性をみにつければ、いい職業につけていいクエストに挑戦できて、たくさん稼げる。
ソードマジカの世界では、いい学校といい生活は密接に関係しているのだ。
アンドレーがハンディストー村の現状を伝え、乱獲をやめてくれと頼んだら、狩人の夫が答えた。
「確かにそちらがわの言い分はわかります。
しかし我々にも言い分があるんです。
だから一方的に狩りをやめろといわれても困ります。
それに、村の人は、村の商売をあきらめて都市に移り住めばいいじゃないですか。
都市に住めば魔獣被害に苦しむことも、身を売らねばならないこともなくなるんですから。
そちら側が、ちょっと工夫すれば、この問題は解決です」
アンドレーが無愛想に言った。
「なるほど。
おぬしらの主張はよくわかった。
つまりは、弱者の命などどうなってもいいということだな。
ならば、ここで殺されても文句を言うな。
我の前では貴様らも弱者に過ぎんからな」
アンドレーが剣を抜いた。
殺気をむき出しにした。
夫婦が、慌てて言った。
「待ってください!
私たちはそんなことは一言も言ってませんよ!」
「嘘を言え。
乱獲者どもは贅沢をしたいだけじゃ。
乱獲をやめたところで命を失うわけではない。
しかし、村のものたちは乱獲がとまると命が助かる。
乱獲が続けば、やがては命を失う。
貴様は贅沢と命をふるいかけ、贅沢のほうを優先させている。
命よりも贅沢が大事だとほざいている。
それはつまりは、強者の贅沢のためなら、弱者の命などどうでもいいと言っているのじゃ」
アンドレーが剣を頭上に構え、狩人に迫った。
「貴様らのような人間の背中を見た子供は、たとえいい学校にいったとしてもロクな人間に育たん。
カエルの子はカエルじゃ。
子育てが失敗に終わるのが目に見えている。
子供が将来不幸になって悲しむのを想像するとつらい。
だから、慈悲深き我が、早めに子供の息を根を止めてやろう」
アンドレーは、子供ところへ案内しろと脅した。
そのペアは怯えて、干し固まったように動かなくなった。
アンドレーから漂う殺気に、2人はブルブル震えだした。
「夫は弓を使え、妻は魔法を使える。
それだけあれば飢えぬ程度には暮らせるじゃろう。
もしそれだけでは幸せになれないというのなら、貴様に必要なのは金でも金儲けの教科書でもなく、人生の燃費をよくしてくれる考えが書かれた哲学書じゃ」
2人は、何か思うところがあったのか、それ以上刃向かうことはなかった。
しょんぼりと頭を垂れて、その場から去ろうとした。
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